
騎手にとって“ダービージョッキー”の称号は、何よりも特別なものだろう。数々の名手たちが挑み、涙を飲んできた日本ダービー。その頂点を、まだ若いうちに掴み取った騎手たちは果たして誰なのか。今回は、グレード制導入後に日本ダービーを制した騎手の中から、“最年少勝利”ランキングTOP5を振り返る。[2/5ページ]
※記録は2026年5月19日現在のもの
第4位:武豊(29歳2ヶ月23日)
呪縛を打ち破った10度目の挑戦
1990年代の競馬界には、「武豊はダービーを勝てない」という半ば七不思議のような言葉が存在していた。
しかし実際には、武豊騎手が日本ダービーを初制覇した年齢は、グレード制導入後では史上4番目の若さ。後年の実績を知る現在から見れば、その評価自体がどこか不思議にも思えてくる。
もっとも、そうした噂が広まるほど、武騎手は若くしてダービーへ挑み続けていた。初騎乗はデビュー2年目の1988年。まだフルゲートは18頭を超える時代だった。
ほどなくして、武騎手は毎年のようにダービー馬候補へ跨るようになっていった。だが、どうしてもダービージョッキーの称号には手が届かなかった。
1998年の時点ですでにダービー以外の八大競走は制していた武騎手。それにもかかわらず、不思議と日本ダービーだけは勝てていなかった。
だからこそ、1998年にスペシャルウィークとのコンビで挑んだダービーには、これまで以上の覚悟があったのかもしれない。
ダービー前の最終追いを終えた直後、武騎手は報道陣に対して、スペシャルウィークに関する情報をほとんど明かさなかった。
ミスとアクシデントさえなければ勝てるという想いが、他馬陣営に知られたくないという気持ちを加速させたからという。そのくらい、パートナーには信頼を置いていた。
迎えた本番。ゲートが開くと、武騎手はスペシャルウィークを道中、中団にエスコートした脚を溜める。
そのまま仕掛けどころで外に持ち出すと、豪脚を炸裂させるタイミングを見計らって徐々にポジションを上げ始めた。
そして直線。スペシャルウィークの前には一瞬、壁ができたが、武騎手は冷静にパートナーをその壁の間に導いて突破。
後は逃げるセイウンスカイを並ぶ間もなく交わし去り、最後は5馬身差の圧勝劇で悲願のダービー制覇を果たした。
普段は派手なガッツポーズを見せない武騎手だったが、このダービーではゴールした後、何度も何度も繰り返し右手を突き上げ、抑えきれない感情を爆発させていた。
直線ではほぼ楽勝ともいえるレースぶりだったのに反し、武騎手は興奮からなのか、鞭を落とすなど、ふだんの彼とは違う一面を何度も見せていたあたり、日本ダービーという舞台の特別さを何より物語っていた。
そして、この勝利を境に武騎手は何度もダービーを勝利。2026年5月19日現在、前人未到の6勝を挙げている。さらに1990年代、2000年代、2010年代、2020年代と、各年代でダービーを制するという偉業まで成し遂げた。
かつて競馬界で囁かれた「武豊はダービーを勝てない」という七不思議は、この1998年の瞬間をもって完全に消え去ったのである。


