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いつまでも語り継ぎたい…クラシック二冠馬(2)圧巻の逃げ切り…常識を打ち破った皐月・菊花の二冠馬

text by 小早川涼風

皐月賞、日本ダービー、菊花賞──クラシック三冠。その全ての獲得は、競馬において特別な栄誉である。だが、あと一歩届かなかった馬たちの中にも、名馬は数多く存在する。そう、二冠を制する事もまた、至難の業。2025年現在、その偉業を成し遂げた馬はわずか26頭。今回はそんな二冠馬の中から5頭を取り上げ、紹介したい。今回は2頭目。

1998年菊花賞を制した時のセイウンスカイ
1998年菊花賞を制した時のセイウンスカイ

②セイウンスカイ(1998年)

「いつも豊ばかりじゃ面白くないでしょう」

 これは皐月賞前、セイウンスカイの取材に集まった報道陣に対して、このレースから同馬への騎乗が決まっていた横山典弘騎手が放ったコメントである。

 当時、武豊騎手は1992年から騎手リーディングを6年連続で独占。騎乗馬もオグリキャップからメジロマックイーン、エアグルーヴと、話題の中心になる馬へ常に跨っていた。

 この年のクラシックもトライアルの弥生賞でスペシャルウィークに騎乗し、セイウンスカイを2着に下して勝利。本番でも間違いなく人気を集めるとされていた。

 しかし、自身が騎乗するセイウンスカイも十分にチャンスを秘めている馬であることを、横山騎手は彼に初めて跨った時に掴んでいた。だからこそ、その言葉が出たのだろう。

 迎えた皐月賞。逃げるコウエイテンカイチを見ながら道中を進めたセイウンスカイは、4コーナー、絶妙のタイミングで仕掛けられると先頭に躍り出る。

 キングヘイローとスペシャルウィークも迫るが、抜け出したセイウンスカイには迫れず、そのままゴール坂を駆け抜けて勝利。戦前の言葉通り、武騎手の跨るライバル馬を下して一冠目を手中に収めた。

 続く日本ダービーは4着に敗れたものの、古馬との初対決となった京都大賞典は大逃げから4コーナーで後続を引き付け、そこからまた引き離すという芸術的な逃げで勝利した。

 そして、三冠最後の菊花賞では、セイウンスカイは1000mを59秒6というハイペースで逃げた。この展開に後続の各馬は無理について行かず、ゆっくり脚を溜める選択をする。

 ところが、次の1000mは64秒3のスローペース。控えた後続を見て、横山騎手はリードを保ったままペースを落とし、セイウンスカイにしっかりと息を入れさせたのだった。

 そしてラスト1000mで満を持して再加速し、59秒3というラップを刻んだセイウンスカイを捕まえられる者は誰もいなかった。

 勝ちタイム3分3秒2は当時の芝3000mの世界レコード。まさにレースを支配して達成した二冠は、「競馬の面白さ」を再確認させる圧逃劇だった。

【了】
(文●小早川涼風)

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