「歓喜の涙、至福の笑顔…」名騎手の日本ダービー初制覇(5)「ダービーを勝てない」不名誉な言葉を覆した決断
現代では数多くのG1レースが行われているが、それでも「ダービーだけは別格」と語る騎手は少なくない。だからこそ、彼らが初めてその大舞台を制した瞬間は、私たちの記憶にも深く刻まれるのだろう。今回は、“ダービー初制覇”を成し遂げた騎手たちの中から、特に印象深い5名を選び、それぞれの物語をたどっていく。今回は5人目の騎手。
⑤福永祐一(19度目の騎乗)
「福永はダービーを勝てない」。武豊騎手がダービーを初めて勝利した1998年、デビュー2年目ながら有力馬のキングヘイローの手綱を取り、ダービー初騎乗を果たした福永祐一騎手。だが、それ以降も人気上位馬などに跨りながらも勝利までは遠く、いつしか偉大な先輩がいわれていた上記の言葉を、自身がささやかれるようになっていた。
そして2017年、福永騎手はデビュー戦で上り3Fで32.6秒を叩き出したワグネリアンと出会う。東京スポーツ杯2歳Sを無敗で制した姿には、どこか若き頃の相棒、キングヘイローの姿も重なった。しかし年が明け弥生賞を2着とした後に迎えた皐月賞は、1番人気に推されながらも7着。続くリベンジを誓うダービーは、不利といわれる大外8番枠を引き、評価を5番人気まで下げての出走となった。
だが、福永騎手は外に入った時点で「腹を括って先行させるしかない」と踏んでいた。その思惑通り、スタートから積極的に前へ出していき好位置を取ると、直線は逃げ粘るエポカドーロを最後でわずかに捉え、19度目の挑戦で悲願のダービー制覇のゴールへと飛び込んでいった。
「頭の中が真っ白になって逃げてしまった」競馬の祭典に初騎乗してから20年。「勝つにはこれしかない先行策」でワグネリアンを優勝に導いた福永祐一騎手は馬上で大号泣を見せ、勝利ジョッキーインタビューでは「福永家にとっての悲願を果たせてよかった」とコメントした。
そしてこの後、史上3人目となるダービー連覇を果たし、武騎手に続く2位タイのダービー3勝を挙げて鞭を置いた福永騎手。次は調教師としてダービーのウィナーズサークルに立つ日も、そう遠くないかもしれない。
【了】
(文●小早川涼風)
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