⑩2019年(勝ち馬ラッキーライラック)
レインボーダリアの勝利から7年が経った、2019年のエリザベス女王杯。この年は、3歳馬2頭が人気の中心であった。
1番人気はラヴズオンリーユー。ここまで4戦4勝と無敗のオークス馬。出走予定だった秋華賞を脚部不安で回避したため、オークス以来久々の実戦となる点が不安ではあったが、ポテンシャルの高さは世代随一のものがあった。
2番人気は、その秋華賞を制したクロノジェネシス。待望のG1初制覇を飾り、勢いに乗っての挑戦であった。ラヴズオンリーユーにはオークスで3着に敗れていたが、順調さで上回る今回はこちらの方が有利と考えるファンも多かった。
対する古馬勢は、4歳馬2頭が筆頭。3番人気はラッキーライラック。2歳時には3戦3勝で阪神JFを制覇。2歳女王に輝いたが、3歳時のチューリップ賞を最後に7連敗。
牝馬クラシック戦線でアーモンドアイに3連敗を喫し、その後も惜敗が続いていた。1年8ヶ月ぶりの勝利を目指し、テン乗りのスミヨン騎手とのコンビで出走していた。
そして4番人気はスカーレットカラー。こちらはG1勝利こそないが、直前の府中牝馬Sでラッキーライラックを倒して初重賞制覇。レース上がりを1秒1上回る末脚での差し切り勝ちはインパクトがかなり強く、上位3頭に次ぐ人気に推されていた。
この4頭までが単勝10倍を切り、5番人気以降は単勝20倍以上のオッズとなって、発走を迎えた。
レースは、ラヴズオンリーユーが好発から先頭を窺うが、内からクロコスミアがハナを主張。ラヴズオンリーユーは2番手に控えるも、今までとは違って前めからの競馬となる。
クロノジェネシスとスカーレットカラーは好位の後ろにつけ、2頭の直後のインに構えたラッキーライラックは、上位人気馬の中では一番後ろとなった。前半1000mの通過は、62秒8とゆったりした流れ。
遅いペースのわりにクロコスミアは後続との差を少しずつ引き離し、5馬身近くのリードを保ったまま4角を回り、最後の直線へと向かう。
直線に入ってもクロコスミアの脚いろは衰えなかったが、すぐ外へと持ち出したラヴズオンリーユーがジリジリと差を詰める。それに併せるようにクロコスミアも少し内を空けて応戦するが、その隙を見逃さなかったのが名手スミヨン。
内でジッと我慢していたラッキーライラックがラチ沿いの狭いスペースをこじ開けるように突き抜けて復活V。いっぱいに粘り込んだクロコスミアが2着となり、クビ差の3着にはラヴズオンリーユーが入った。
勝ったラッキーライラックは、桜花賞から続く連敗を7で止め、チューリップ賞以来となる1年8ヶ月ぶりの勝利。2つ目のG1タイトルを獲得した。
その後、翌年の大阪杯で自身初となる牡馬混合のG1制覇を飾ると、阪神競馬場で行われたエリザベス女王杯も勝利。レース史上4頭目となる連覇を達成した。
このように、世代限定戦で行われていた1995年以前と、古馬混合となった1996年以後では、まったく位置づけの異なるレースとなったエリザベス女王杯。
近年は、牡馬と互角以上に戦える牝馬が出てきたことで、天皇賞(秋)やジャパンC、マイルCSなどに向かう馬たちも多いことは確かだが、やはり歴代の勝ち馬には名牝がズラリ。
3歳牝馬の世代レベルをはかる試金石としても、大きな役割を果たしているこのレース。今後はどのような名勝負が繰り広げられるのか、注目して見ていきたい。
(文●中西友馬)
【了】