⑩2021年(勝ち馬タイトルホルダー)
キタサンブラックの勝利から6年が経った2021年。この年の菊花賞は、京都競馬場の改修工事の影響により、1979年以来、実に42年ぶりとなる阪神競馬場での開催となった。さらには、皐月賞馬とダービー馬が出走を見送って不在。そんな混沌としたレースを制したのは、他馬に影をも踏ませぬ走りで圧倒した、タイトルホルダーであった。
この年のクラシック路線で最初に脚光を浴びたのは、エフフォーリア。4戦4勝と無敗で皐月賞を制覇。一気にこの世代の主役に名乗りを挙げた。しかし、断然人気で迎えたダービーではハナ差の2着に惜敗。
エフフォーリアを倒してダービー馬に輝いたのは、シャフリヤールであった。しかし、秋の大目標はエフフォーリアが天皇賞(秋)、シャフリヤールがジャパンカップと発表。ともに菊花賞へは出走しないこととなった。
そして迎えた菊花賞。1.2番人気は神戸新聞杯でワンツーだったステラヴェローチェとレッドジェネシス。中でも、川田騎手とコンビ復活のレッドジェネシスが1番人気となった。3.4番人気はセントライト記念勢。長休明けながら3着に入ったオーソクレースと、1番人気を裏切る形となったタイトルホルダーまでが単勝10倍を切っていた。
レースは、最内枠からワールドリバイバルが行く素振りを見せるが、セントライト記念で番手に収まり大敗したタイトルホルダーが、気合いをつけてハナを切る。オーソクレースは中団やや後ろからの競馬となり、ステラヴェローチェとレッドジェネシスは、ともに後方集団で脚をためていた。
逃げるタイトルホルダーは、最初の1000mを60秒0で通過すると、次の1000mを65秒4とグッとペースを落とし、後続を引きつける。4角では2番手以降の手ごたえが怪しくなる中、タイトルホルダー鞍上の横山武史騎手だけは抜群の手ごたえで、最後の直線へと向かう。
直線に入って追い出されると、タイトルホルダーは一度引きつけた差をまた広げ始め、焦点は2着争いとなる。最後まで脚いろの衰えなかったタイトルホルダーは、激しい2着争いを尻目に、5馬身差の圧勝。2着には中団から脚を使ったオーソクレースが入り、牝馬のディヴァインラヴが3着となった。
春2冠ではエフフォーリアとコンビを組んでいた横山武史騎手とのタッグで、初のG1タイトルを獲得したタイトルホルダー。続く有馬記念からは兄の横山和生騎手とコンビを結成し、翌年の天皇賞春と宝塚記念を制覇。凱旋門賞でも果敢にハナを切り、日本のファンを大いに沸かせた。
今回はあえて、3冠馬誕生の瞬間以外から、10のレースをピックアップしてみた。スピード重視となっている近年の傾向から、長距離路線自体が蔑ろにされがちな面は否めない。しかし、騎手同士の駆け引きが見られるマラソンレースには、やはり人を惹きつける魅力がある。今後も、この菊花賞でさらなるドラマが生まれることに期待したい。
(文●中西友馬)