⑤2002年(勝ち馬ヒシミラクル)
夏の上がり馬であるマンハッタンカフェが勝利し、馬連46000円超の配当となった2001年の菊花賞。その翌年は順当に春の実績馬が勝利し、本命党歓喜…とはならず。2002年の勝ち馬ヒシミラクルもまた、春のクラシック未出走だった夏の上がり馬であった。
この年のクラシックは、皐月賞も大荒れ。1番人気のタニノギムレットが後方から脚を余して敗れる中、勝ったのは単勝15番人気のノーリーズン。2着に単勝8番人気のタイガーカフェが入り、馬連は53000円超という配当となった。
一転ダービーは、タニノギムレットとシンボリクリスエスという堅い決着になったが、ダービー馬タニノギムレットは屈腱炎により現役引退。ダービー2着のシンボリクリスエスは神戸新聞杯を快勝するも、天皇賞秋へと出走することになり、ダービーのワンツーが不在の菊花賞となった。
一方ヒシミラクルは、ダービー終了後の6月下旬に500万下(現1勝クラス)の売布特別を勝利。その後、1000万下(現2勝クラス)で足踏みがあり、1000万下を卒業したのは9月になってから。その後神戸新聞杯に挑戦するも、シンボリクリスエスの6着に敗れていた。
そしてクラシック追加登録料の200万円を支払って菊花賞に登録するのだが、神戸新聞杯で優先出走権を獲得できなかったヒシミラクルは、8分の3が出走できる抽選対象。分の悪い抽選であったが、見事当選して、やっとの思いで出走に漕ぎつけていた。
1番人気は皐月賞馬ノーリーズンで、2番人気は骨折により春のクラシック出走が叶わなかった素質馬アドマイヤマックス。ダービー4着馬のメガスターダムが3番人気となり、4番人気の宝塚記念3着馬ローエングリンまでが10倍を切る単勝オッズ。抽選を突破したヒシミラクルは、単勝10番人気で発走を迎えた。
レースは、スタート直後に1番人気のノーリーズンが落馬。波乱の幕開けとなり、京都競馬場は大きなどよめきと悲鳴に包まれた。先行争いは、大方の予想通り、快速馬ローエングリンがハナを切ろうとするが、その内から、前年逃げて見せ場を作った太宰騎手騎乗のダイタクフラッグが抵抗を見せてペースが上がる。
1周目のスタンド前でローエングリンがハナを取り切ったが、最初の1000m通過は58秒3というかなりのハイペース。メガスターダムとアドマイヤマックスは中団から進め、ヒシミラクルは後方でじっくりと脚をためる展開となる。
序盤に前が競ったぶん、レースが動いたのも4角手前と早かった。早々に失速したローエングリンに代わって、外からまくり気味に動いたメガスターダムが先頭に代わる。連れてヒシミラクルとヤマノブリザードも上がってきて、3頭横並びで最後の直線へと向かう。
直線では、その争いからヤマノブリザードが脱落し、メガスターダムとヒシミラクルの叩き合い。残り150mでねじ伏せるように前に出たヒシミラクルの勝利かと思われたが、その外から、後方で脚をためていたファストタテヤマが急追。
接戦となったゴール前は、ファストタテヤマをハナ差しのいだヒシミラクルが勝利。ファストタテヤマから半馬身遅れた3着にメガスターダムが入った。10番人気ヒシミラクルの勝利に加え、16番人気ファストタテヤマが2着に入ったことにより、馬連は96000円超と前年以上の高配当となった。
勝ったヒシミラクルはその後、翌年の天皇賞春と宝塚記念も勝利。勝っても勝っても人気にならない、不思議な馬であった。
(文●中西友馬)