⑤2018年(勝ち馬エネイブル)
凱旋門賞の歴史上、連覇を達成した馬は7頭。さらに1930年と1932年を制覇したモトリコを加え、計8頭が凱旋門賞を2勝している。
しかし、3連覇もしくは3勝目を挙げた馬は、100年を越す歴史の中で存在しない。そんな偉業に過去一番近づいたと思われる馬が、2017年と2018年を連覇したエネイブルである。
エネイブルはイギリス生まれの牝馬。2歳時は1戦1勝にとどまるが、2戦目で3着に敗れた後は連勝街道を進み、英愛の両オークスを制覇など、5連勝で挑んだ1度目の凱旋門賞。2016年の凱旋門賞から日本でも馬券発売が開始されており、エネイブルは日本オッズでも単勝1.8倍の断然人気。この支持に応え、好位追走から危なげなく抜け出して勝利した。
翌年は怪我があってシーズン前半の出走はなかったが、復帰戦を快勝し、連覇を目指す凱旋門賞に出走した。この年もクリンチャーが出走していたことにより、日本での馬券発売を実施。エネイブルの日本オッズは、昨年よりも支持を集めた1.7倍となっていた。
レースはネルソンがハナを切り、エネイブルはクリンチャーと並んで好位からの競馬。最後の直線へ向くと、前を行く2頭の外に出すエネイブル。クリンチャーは後退し、馬群に飲み込まれていく。
残り300mで先頭に立ったエネイブルだったが、道中最後方から馬群をさばいて伸びてきた3歳牝馬シーオブクラスが猛追。最後は短クビ差まで追い詰めたが、エネイブルが押し切って連覇を達成。クリンチャーは17着に敗れた。
勝ったエネイブルは、その後アメリカのBCターフも勝利。凱旋門賞とBCターフを同一年に制覇した史上初の馬となった。さらに翌年も連勝を伸ばし、デビュー3戦目からの連勝を12に伸ばして迎えた3度目の凱旋門賞。日本オッズ1.5倍という圧倒的な支持を集めたが、ゴール前でヴァルトガイストの逆転を許して2着。史上初の3連覇は達成ならなかった。
翌年も現役を続行したが、4度目となる凱旋門賞で6着に終わり、現役を引退。凱旋門賞3連覇や3勝目は惜しくも達成できなかったが、史上初となるキングジョージ3勝など、歴史に名を刻んだ名牝であった。
今回取り上げた5頭以外にも、過去の凱旋門賞馬は、歴史的名馬ぞろい。いつかこの歴史の1ページに、日本調教馬の名が刻まれる日が来ることを願っている。
(文●中西友馬)