競馬の世界で最高峰に位置づけられる「G1」。そのタイトルは騎手であれば一度は夢見る頂だろう。だが、その壁は高い。そもそも騎乗機会が限られ、さらに勝つには、運も馬の力も、技術も、すべてが噛み合わなければならない。そこで今回はG1初勝利までに最も多く挑戦した騎手たちトップ10 をランキング形式で紹介していく。[3/10ページ]
第8位 吉田隼人
挑戦39回目・2016年有馬記念・ゴールドアクター

2006年の秋華賞でコイウタに騎乗したのが初のG1挑戦であった吉田隼人騎手。デビュー3年目であったこの年は60勝を挙げ、「頼れるアンちゃん」としての実績を順調に積み重ねていたといえる。
勢いそのままに翌2007年、天皇賞(秋)で7番人気のアグネスアークを2着に導き、2009年には菊花賞でこれまた7番人気のフォゲッタブルと2着に入線。
それ以外のG1でも二桁人気の馬で掲示板へ突っ込んでくることもよくあり、常に大舞台で存在感を発揮していたジョッキーであった。
しかし、フォゲッタブル以降のG1では17戦連続で馬券圏内への入線を果たせておらず、5年間着外が続いていた。
そんな折、2014年8月の札幌で隼人騎手はゴールドアクターと出会う。彼の手綱で条件戦を2連勝し、菊花賞では3着に好走。
古馬となった後も条件戦からG2のアルゼンチン共和国杯までを3連勝し、充実期を迎えた同馬は有馬記念へ。賞金不足での除外も懸念されたが、回避馬も出たことで出走が確定した。
しかし、前月末に隼人騎手が落馬負傷。ひざを骨折した同騎手は全治6週間の診断を下されており、日程的には有馬記念に間に合わないとされていた。
それでも隼人騎手は「思い入れのあるこの馬で有馬記念を勝ちたい。足が曲がってもいい。負けたら自分のせいにしてくれていいので乗せてください」と陣営に直談判。有馬記念への騎乗が決まった。
当日は本番直前のホープフルステークスにも騎乗し芝の感触を確かめた隼人騎手は、レースでは逃げると見られていたキタサンブラックを制するような構えで相棒の行き脚をつけていく。
そのまま3番手に控えると、勝負所では捲ってきたゴールドシップに合わせるかのような形で先頭集団に並び、粘るキタサンブラックとマリアライトを捕らえて優勝。
ゴール後、隼人騎手は馬上で1本指を突き立て「俺たちがナンバーワンだ!」とアピールしてみせた。
有馬記念でG1初勝利を果たした騎手は、2025年10月時点ではクリストフ・ルメール騎手と隼人騎手のみ。もちろん、最初からJRA所属であったジョッキーとなると、隼人騎手が唯一である。
「足が曲がっても勝ちたい」と訴えた彼の心意気は、少し遅れた最高のクリスマスプレゼントを人馬にもたらした。



