涙なしでは語れない…伝説級G1馬の復活劇(2)中363日…いまだ破られていない日本記録を作った帝王
名馬と呼ばれたGⅠホースたちも、時にスランプに苦しみ、敗北を重ね、引退の声が囁かれることもある。それでも彼らはあきらめず、復活の瞬間を想い描きながら、静かに牙を研ぎ続けた。今回は、G1を勝利しながらも大きな挫折を味わい、のちに見事な復活を遂げた5頭の名馬を取り上げて紹介したい。今回は2頭目。
②トウカイテイオー(1993年 有馬記念)
日本競馬では史上初めてとなる無敗の三冠を達成したシンボリルドルフの初年度産駒の1頭に、トウカイテイオーがいた。
彼は父同様負け知らずで二冠を達成したものの、ダービー後に左後脚を骨折。父仔で無敗三冠という夢は散った。
しかし翌年に復帰すると、日本馬では史上3頭目、それも父以来となるジャパンカップ制覇を達成。前走の天皇賞(秋)で7着に敗れた悔しさを、世界の強豪相手に晴らす快勝劇だった。
この走りに人々は二冠馬の完全復活を感じ、次走の有馬記念もトウカイテイオーを1番人気に支持した。だが結果は11着。そして追い打ちをかけるように、レース中の故障も判明してしまう。
以降は翌年の宝塚記念を目標に調整されていたが、その過程で再び骨折したトウカイテイオーの復帰戦は、1年後の有馬記念までズレ込んだ。
その有馬記念、トウカイテイオーの単勝人気は14頭中4番人気。これだけ見ると上位の評価を受けていたように思えるが、実は売れていたのは単勝だけ。複勝人気は8番人気にとどまっていた。
「勝つのは厳しいかもしれないけど、出走してくれた記念馬券」という想いを抱いていたファンも多かっただろう。
しかし、トウカイテイオーはパドックで柔らかい動きをし、本馬場では膝を高く上げ弾むように歩く「テイオーステップ」を見せており、長期休養明けとは思えないほどに仕上がっていた。
レースは中団から進め、勝負所で大本命のビワハヤヒデをマークするように進出すると、ブランクなど全く感じさせないような豪脚で芦毛のライバルを捉える。そしてそのまま抜け出し、1年ぶりのレースを勝利で飾った。
レース後、田原騎手は「テイオーをほめてやってください」と語り号泣。中363日の出走でG1を制覇するという偉業は、2025年8月現在も破られていない大記録である。
父のように無敗の三冠はなしえなくとも、この時テイオーがファンに与えた感動は、確かにルドルフを超えていた。
【了】
(文●小早川涼風)
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