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【騎手マニュアル】「戸崎のせい」からの卒業。戸崎圭太は“特徴がないのが特徴”であり強み

text by 勝木淳

「騎手マニュアル」連載第5回では、戸崎圭太騎手を取り上げる。いわずと知れた関東のトップジョッキーで、人気馬に騎乗するケースが多く、馬券が外れたファンから度々理不尽な批判を受けやすい騎手の代表格と言ってもいいかもしれない。そんな悲しい事例を増やさないために、ライターの勝木淳氏(@jamjam_katsuki)が戸崎騎手の馬券の買い時を考察する。

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戸崎圭太騎手

馬の適性だけにフォーカスすればいい

 関東リーディング1→2→1位。勝利数は136→112→133勝と安定しており、関東を代表するトップジョッキー。戸崎圭太騎手(以下、戸崎騎手と記す)を端的にあらわせばそんなフレーズが浮かぶ。頼れる男だからこそ、求められるハードルもついつい上がってしまう。

 これだけ勝ってくれれば十分なのだが、どうも迫力不足というか印象の薄さが拭えない。本当にこれは余計なお世話だが、ファン目線の戸崎騎手はいくらか地味に映ってしまう。

 ジョッキーに派手さなんていらない。もちろん、それも一理あるが、トップジョッキーとなれば、華がある存在であってほしい。

 では騎手の華とはなんだろうか。もちろん、派手なガッツポーズでも見た目でもない。心を揺さぶられるようなレースであり、その根底に走る物語をつくれるかどうかにある。

 この馬にはこの騎手、この騎手といえばこの馬。そんな人馬のコンビが華を形作る。戸崎騎手といえばという問いに浮かぶ馬とは。筆者はフリオーソが浮かんだ。戸崎騎手を鞍上に交流GⅠ4勝。地方競馬の歴史にその名を刻んだフリオーソの引退は13年前のこと。

 以後、ジェンティルドンナの有馬記念、ストレイトガールとのGⅠ3勝、皐月賞馬エポカドーロ、ジャスティンミラノ、そしてレガレイラの有馬記念と戸崎騎手はビッグレースでの勝利を重ねる。それでも思い浮かぶのはフリオーソ。しいていえばストレイトガールか。鮮烈に記憶に残るコンビが少ない。これこそ戸崎騎手の特徴を端的に示す。

 だが、誤解してほしくないのは、だからどうこうと言うつもりはない。どんなスタイルだろうと、関東のトップジョッキーであるという事実は揺るがない。勝ち星より敗戦が遥かに多い騎手の世界で、たくさん勝つこと自体は尊く、それを追求していくことが関係者からの信頼を獲得する確実な方法でもあるからだ。

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①戸崎騎手データ 前走騎手別成績※2020年~2025.2.23

 その結果がこの数字でもある。データ集計期間中、戸崎騎手は乗り替わりで315勝をあげ、継続騎乗の倍近い数字を残した。単純に乗り替わりでの騎乗が多く、2220回もある。継続騎乗は974回なので、騎乗数だと倍を超える。

 騎手の乗り替わりは当たり前という現代競馬では決して珍しくはないが、レースごとに騎乗馬をよく替える騎手だ。そのレースでもっとも勝てる可能性がある馬を選ぶのか、単純に続けて乗せてもらえないか。後者はリーディング成績を踏まえれば考えにくい。おそらく前者だろう。

 だが、これも当たり前とはいえば当たり前。勝利数を稼ぐには勝てる馬を見定めることだ。

 ちなみに川田将雅騎手は同期間で乗り替わり1456回騎乗397勝、継続944回騎乗292勝。乗り替わりが多いのはトップジョッキーの証だが、それでも数字の開きは戸崎騎手ほど極端ではない。

 またGⅠは期間中6勝をあげたが、乗り替わり4勝、継続2勝。もちろん、これも名コンビがいないことを示すデータだが、継続の倍も乗り替わりでGⅠを勝ったのは腕達者だからでもある。

 ダービーを乗り替わりで勝つのは難しいといわれるが、ダービーに限らず、GⅠのデータで乗り替わりが優位なものはほぼない。不利な状況であるはずの乗り替わりでの勝利は本来、もっと称えられるべきだろう。

 たとえば昨年の有馬記念。レガレイラとは初コンビだったが、これまでの差す形から一転、早めに動いて先に抜け出すという進化した走りで勝利へ導いた。実戦初騎乗、それも有馬記念でやってのけたのは神騎乗といっていい。

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②戸崎騎手データ 馬場状態別成績※2020年~2025.2.23

 戸崎騎手といえば、条件を問わない騎手としても知られる。正直、データに偏りがなく、馬場別の成績もご覧の通り。芝の良馬場だろうが、ダートの不良だろうが、関係なし。どんな条件でも一定の結果を残せる騎手だ。

 一方で没個性という認知につながる。器用ゆえにどこか物足りないという評価は競馬に限らず、どの世界にもあるが、これもある意味、残酷といえる。器用こそ個性であり、センスの発露なのだ。どんな馬場でも気にしない。騎手にクセがない分、馬の適性がストレートに結果につながる。そう考えると、馬の適性だけにフォーカスすればいいわけで、戸崎騎手は買いやすい。

 戸崎騎手の特徴として、馬の走りたいように走らせる点をあげたい。序盤から前に行きたければ前へ、控えたければ控える。馬の意志に逆らうような騎乗は少ない。普段から馬の意思を尊重することで、気分よく走ってもらうのが戸崎流。差し馬を無理に先行させるような騎乗は少なく、それだけにレガレイラの先行策は特筆できる。

 これもレガレイラに前へ行く意思があったから。その意志を差し馬だからと封じ込めないので、有馬記念の勝利をたぐり寄せた。型にはめず、自然体で馬に接する。これが戸崎騎手の流儀なのではないか。

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