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いつまでも語り継ぎたい…クラシック二冠馬(3)その男、気性難につき…武豊を悩ませたクセが強すぎる良血馬

text by 小早川涼風

皐月賞、日本ダービー、菊花賞──クラシック三冠。その全ての獲得は、競馬において特別な栄誉である。だが、あと一歩届かなかった馬たちの中にも、名馬は数多く存在する。そう、二冠を制する事もまた、至難の業。2025年現在、その偉業を成し遂げた馬はわずか26頭。今回はそんな二冠馬の中から5頭を取り上げ、紹介したい。今回は3頭目。

2000年皐月賞を制した時のエアシャカール
2000年皐月賞を制した時のエアシャカール

③エアシャカール(2000年)

 姉にオークス2着のエアデジャヴーを持つ良血馬とだけあって、デビュー時から注目を集めていたエアシャカール。騎乗していた武豊騎手も「スペシャルウィークをこぢんまりさせた感じ」と期待を寄せていた。

 一方で「サンデーサイレンスの悪いところが全部集まったような馬。乗りにくい」とも話しており、気性面では相当手を焼く存在だったようだ。

 とはいえ、秘めたる素質は本物。皐月賞では坂の上りでダイタクリーヴァに並びかけてからは内にヨレたが、何とか立て直して1着でゴール坂を駆け抜けた。

 続く日本ダービーではアグネスフライト2着。だがこのレースでエアシャカールは抜け出してから内にヨレ、アグネスフライトが追い込んできてからは同馬に対して猛烈なタックルを仕掛けるなど、直線ほとんどササりっぱなしだった。

 そして秋初戦の神戸新聞杯、エアシャカールは全く真っ直ぐ走らない。勝負所から直線にかけて真横にいたアグネスフライトに対してヨレっぱなしで、武騎手は何とか軌道修正しようと手綱を引くのがやっと。最後は追うのをやめ「彼の頭の中を見てみたい」とレース後に言われるほどの斜行癖を露呈してしまった。

 菊花賞では「ヨレる癖がある馬が、長丁場でアグネスフライトを逆転できるかは微妙……」という評価が大勢を占め、エアシャカールはライバルからやや離された2番人気でレースを迎える。

 だが、この年のクラシックをエアシャカールと戦い抜き、苦楽を共にしてきた武騎手がこのまま終わるはずがなかった。

 道中は内ラチ沿いを走り、直線に向いても武騎手は外に出さず、とにかく内へ相棒を誘導していった。右に行きたがるエアシャカールの悪癖は、そこにそれ以上行く道がなければ封じられるという鞍上の思惑に、ヨレを防ぐために装着したリングハミの効果もハマった。

 ここまでのレースでは見た事の無いような伸び方で、エアシャカールはラチ沿いから脚をしっかり伸ばしていく。最後は外から伸びてきたトーホウシデンとの叩き合いを制して、二冠のゴール坂へ飛び込んだ。ゴールの後、武騎手は笑顔でガッツポーズ。名手の会心の騎乗と言える1戦だった。

【了】
(文●小早川涼風)

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