振り返っても奴がいない?思わず絶句…衝撃の逃走劇(5)その男、逃げ馬につき。自身の仕事を全うする逃亡劇
「逃げ」。それは先頭を走り、レースの流れを支配する諸刃の剣だ。ライバルたちに終始監視を受け、自分との戦いに打ち勝つ。そのためには鞍上の手腕も欠かせない。だからこそ鮮やかに決まる逃げは、人馬の共同作業による結晶ともいえる。今回は筆者がリアルタイムで目撃した「衝撃の逃げ」を5レースに絞り、その凄みを振り返る。今回は5つ目。
⑤パンサラッサ
~2022年天皇賞(秋)、2023年ジャパンカップ~
肉を切らせて骨を断つ。自身を極限まで追い込み、ライバルたちをしのぎ切る。パンサラッサはそんな破壊的な逃げを得意とした。
若い頃は引きつける逃げも見せていたが、心身の成長とともに研ぎ澄まされ、徐々に破壊力を増していく。その最たる例が2022年天皇賞(秋)だ。
パンサラッサはスタートから、12.6-10.9-11.2-11.3-11.4とマイル戦でも出ないような速いラップを刻む。1000m通過57.4はあのサイレンススズカの天皇賞(秋)とまったく同じ。
絡みに来たノースブリッジを退けてからもペースをさほど落とさない。というより、行けるだけ行くという潔い姿勢を貫く。鞍上は3、4コーナーで手綱を押し、引き離せるだけ離しにかかる。
直線に向いた時点で後続との差は10馬身。逃げ切り濃厚。そんな空気をイクイノックスに切り裂かれた。イクイノックスの能力覚醒を引き出したのはパンサラッサの大逃げだったのかもしれない。
翌年のジャパンカップ。サウジカップを制したパンサラッサは再びイクイノックスに挑む。前年の天皇賞(秋)よりもさらにリードをつくる超がつく大逃げ披露。
まるで後続の視界から消えるような強烈な逃げは、ここまでしないとイクイノックスは倒せない、という意思のあらわれでもあった。大いに場内を沸かすも、12着。
結果的にこれが引退レースとなったが、パンサラッサが歩んだ道を象徴するかのような大逃げだった。
【了】
(文●勝木淳)
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