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振り返っても奴がいない?思わず絶句…衝撃の逃走劇(3)何も言えねぇ…横山典弘騎手してやったり

text by 勝木淳

「逃げ」。それは先頭を走り、レースの流れを支配する諸刃の剣だ。ライバルたちに終始監視を受け、自分との戦いに打ち勝つ。そのためには鞍上の手腕も欠かせない。だからこそ鮮やかに決まる逃げは、人馬の共同作業による結晶ともいえる。今回は筆者がリアルタイムで目撃した「衝撃の逃げ」を5レースに絞り、その凄みを振り返る。今回は3つ目。

2004年天皇賞(春)を制した時のイングランディーレ
2004年天皇賞(春)を制した時のイングランディーレ

③イングランディーレ

~2004年天皇賞・春~

 長距離戦の醍醐味といえば、騎手たちの駆け引きにある。ライバルとの位置関係や仕掛けのタイミングなど、勝敗をわける要素が多く、見どころ多き競馬が長距離戦だ。

 伏兵の大逃げも場内を沸かし、長距離戦の見せ場のひとつ。たいていは途中で息切れするか、最後は有力馬の地力に屈するものだが、そうはならないレースも存在する。後ろの上位人気馬たちがけん制する間に、気がつけばセーフティーリード。これも長距離戦での逃げの醍醐味だ。

 そのひとつが2004年天皇賞(春)。主役となったのは単勝10番人気のイングランディーレ。

 戦前の主役はリンカーン、ネオユニヴァース、ザッツザプレンティ、ゼンノロブロイの四強。実際、単勝オッズひと桁台はこの4頭だけ。10倍台もシルクフェイマス1頭と上位と下位の評価はかなり離れていた。

 イングランディーレは前年の天皇賞(春)で9着に敗れてから、主戦場をダートに移す。ブリーダーズゴールドC、白山大賞典を連勝し、ダートでの地位を築くも、その後は4連敗中。

 前走ダイオライト記念2着で再浮上のきっかけをつかみ、再び芝戦線へ。とはいえ、いきなり天皇賞(春)では分が悪い。10番人気評価も納得だった。

 そんなノーマークの状況を逆手にとったのが横山典弘騎手だ。スタート直後、しっかりハミをかけ、手綱をしごいて先手をアピール。後ろもあっさり引いた。ここから一気にリードをとらないところが憎らしい。

 1周目スタンド前までじっくり運び、1コーナー付近で息を整え、2コーナー付近からようやく後ろを引き離しにかかる。中盤1000mラップは12.3-12.1-13.5-12.8-12.4。

 後続がもっとも動きたくない区間で一旦、ラップを上げ、2、3番手に追走を許さない。そして、独り旅となるや、13.5と一気に落とし、イングランディーレを落ち着かせ、息を整える。

 2周目3コーナー付近から下り坂を利用し、再度ペースアップ。直線に向いた時点ではセーフティーリードをつくる。ラスト1000mは、12.4-12.2-11.6-12.1-12.4と早めに加速する構成は美しくも感じる。

 有力勢のなかでもっとも前にいた2着ゼンノロブロイはザッツザプレンティ、リンカーンにマークされ、後ろのネオユニヴァースに注意を払い、仕掛けが遅れた。騎手心理を読み切った横山典弘騎手の魔術師ぶりが際立った。

【了】

(文●勝木淳)

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