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~あのミルコ・ヒコーキ くもり空わって~ミルコ・デムーロ飛行機ポーズ(3)念願のJRA通期免許獲得へ「ドリームフライト」

text by 小早川涼風

 1999年に短期免許で初来日して以来、日本競馬で通算1300勝以上を挙げ、現在はJRA所属のジョッキーとして活躍するミルコ・デムーロ騎手。彼を語るうえで外せないのが「飛行機ポーズ」だ。

 これは、大きなレースを制したときにたびたび披露される決めポーズで、その名の通り両手を広げ、飛行機のような姿勢を取る。

 このポーズの元ネタは、イタリアを中心に活躍した元プロサッカー選手で、2025年現在はトルコ代表監督を務めるヴィンチェンツォ・モンテッラが、ゴール後に見せるパフォーマンスである。

 モンテッラのファンだったデムーロ騎手は、偶然新幹線で本人に遭遇し、「大ファンです! ガッツポーズも大好きです!」と声をかけた。その際、「大きいレースで勝ったら、ぜひやってください」と言われ、約束を交わしたという。それ以来、このポーズはデムーロ騎手を象徴するパフォーマンスとなった。

 今夏はアメリカへフライトし、奮闘を続けるデムーロ騎手。そこで今回は、彼が劇的勝利を飾り、飛行機ポーズを披露したレースを5つピックアップして紹介する。今回は3つ目のレース。

2014年高松宮記念を制した時のコパノリチャード
2014年高松宮記念を制した時のコパノリチャード

③2014年高松宮記念(コパノリチャード)

 2014年の1月、デムーロ騎手はこれまで騎乗していた欧州から香港へ騎乗拠点を変更するという、騎手人生においてひとつの転機を迎えていた。

 そして移籍先でも、騎乗機会3戦目で14頭中12番人気の大穴馬で勝利するという存在感を発揮。その2か月後、短期免許を行使して日本にやってきたデムーロ騎手は、来日後最初のG1・高松宮記念にコパノリチャードとのコンビで臨むこととなった。

 3歳の春にアーリントンカップを制し、3歳G1戦線の主役候補となりながらも結果を残せなかったコパノリチャード。だが、秋にはスワンステークス、年明け初戦の阪急杯を制し、4歳の春には重賞3勝目を挙げていた。高松宮記念ではその実績、そして鞍上の手腕も評価され3番人気の支持を受ける。

 レースはハナを切るはずのハクサンムーンが出遅れたことにより、同型のエーシントップが楽に単騎でスタートから飛ばす。これまでハナを取れないと行きたがる素振りを見せていた同馬だったが、先頭が飛ばし、自身も包まれない2番手集団の先頭に誘導されたこともあってか、気分良く道中を進める。

 そして直線に向くと、荒れた馬場も気にせず馬場の真ん中を鋭く伸びた。そのまま前を行くエーシントップを捉え、追い込んできたスノードラゴン以下を3馬身突き放す快勝劇でG1初制覇。

 そしてゴールインの瞬間、デムーロ騎手は勢い良く両手を広げる。それは前回サンライズマックスで勝利した時よりも、際立って力強い広げ方に見えた。

 実は前年の秋、デムーロ騎手はJRAの騎手免許の試験を受験し、不合格に終わっていた。そしてこの年は香港に拠点を移して以降では初となるJRAのG1勝利で、恐らく胸中に抱える想いは並々ならぬものがあったのだろう。

 だからこそ、過怠金10万円を課されてでも馬上で行った飛行機ポーズにはその想いが現れていたと言っていいのではないだろうか。

 翌年、デムーロ騎手はクリストフ・ルメール騎手と共にJRAの通年免許を取得。この高松宮記念の勝利が、夢を形にするためのひとつのきっかけになったと考えるのなら、まさに「ドリームフライト」だろう。

【了】

(文●小早川涼風)

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