まさに一心同体!武豊一筋の名馬(3)武豊流・教育!全てはダービーを勝つために…前人未到の大記録へ
1987年のデビュー以来、数々の大記録を打ち立て、今もその記録を塗り替え続けている武豊騎手。彼と蹄跡を共にした名馬は非常に多く存在するが、デビューから引退まで手綱を託された馬は、実はそれほど多くない。そこで今回は、武騎手がデビューから一貫して騎乗、なおかつG1を制覇した5頭の名馬を紹介する。今回は3頭目。
③アドマイヤベガ
武騎手が騎乗し、牝馬二冠を達成したベガ。彼女の初仔として誕生したアドマイヤベガは、新馬戦で斜行し、1位入線から4着に降着となる。
この結果に武騎手は「結果は残念だし他馬に迷惑をかけてしまった」と前置きしながらも「4コーナーを回ってから豹変した。ダービーを勝っても不思議ではない実力を秘めている」とその能力を高く評価した。
そして次走は未勝利戦ではなく、500万下条件(現:1勝クラス)のエリカ賞に出走し快勝。デビュー時に感じた素質の片鱗が間違っていなかったことを確かめた武騎手は「東京芝2400mを勝てるように」と、アドマイヤベガに競馬を教えていった。
明けて3歳、前年暮れにラジオたんぱ杯3歳S(現:ホープフルS)を制し、主役の一員としてクラシック路線に足を踏み入れたアドマイヤベガだったが、弥生賞はナリタトップロードに届かず2着。皐月賞は体調不良による馬体減やレース中の不利も影響してテイエムオペラオーの6着に終わった。
しかし、決して力負けではないと踏んでいた陣営は、ダービーに向けてとにかくアドマイヤベガの馬体を回復させ、本番に備えるメニューを組んでいった。その甲斐あって、ダービー当日は皐月賞からプラス10キロで出走。ライバルたちに引けを取らない、堂々たる雰囲気を取り戻していた。
ゲートが開くと武騎手はアドマイヤベガを後方に誘導し、ゆっくりと前の出方をうかがう。1000mの通過は60.2秒と淀みなく流れており、無理に進出しなくても差し切れると踏んだ武騎手は、勝負所でもじっくりパートナーの脚を溜めていた。
迎えた直線、大外へ持ち出されたアドマイヤベガは前2走の悔しさを晴らすような末脚で先頭集団へ襲い掛かった。早めに先頭へ立っていたテイエムオペラオーを交わし、番手から進めたナリタトップロードとの一騎打ちに持ち込む。
最後はわずかにクビ差だけライバルを捉えて勝利。武騎手は史上初となる同一騎手による日本ダービー連覇を成し遂げた。
この勝利の後、武騎手は「ダービーを勝つコツが見えた気がします」「普段からいかにダービーを意識して、平常心で臨めるかが大事だと思う」と語った。それをこの舞台で掴んだからこそ、ここから同レース4勝を挙げ、前人未到のダービー6勝(2025年7月現在)という大記録を打ち立てる存在になっていったのだろう。
【了】
(文●小早川涼風)
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