栄光への第一歩…早期デビューでGⅠ馬へ駆け上がった逸材(1)桁違いのエンジン…驚異的速さのスピードスター
ダービーが終わった翌週の6月から、またクラシックに向けた戦いが幕を開ける競馬界。近年では新馬戦の開幕週から有力馬が輩出されており、翌年の活躍を見据える上でも非常に重要なレースとなることも珍しくない。今回は、6月のデビュー戦で勝利を飾り、後にG1を制した名馬を5頭取り上げる。今回は1頭目。
①アグネスワールド
父:Danzig
母:Mysteries
生年月日:1995年4月28日
性別:牡馬
毛色:黒鹿毛
調教師:森秀行(栗東)
1997年の6月7日に函館の芝1200mという条件でデビューしたアグネスワールド。半兄にスプリンターズSを制したヒシアケボノがいるということに加え、父が世界的な名スプリンターであるDanzigに変わったことで、デビュー前から相当な血統馬として注目を集めていた。
そして、その噂に違わぬ走りでアグネスワールドは函館のターフを駆け抜ける。共に初出走の時を迎えたマイネルクラシック、エモシオンは後に重賞を制するほどの実力馬であったが、その2頭を全く寄せ付けない快勝劇。世代最初となる牡牝混合の新馬戦を見事に勝利で飾って見せた。
その勝利から約2か月後、アグネスワールドは函館3歳(現:2歳)Sに挑戦した。デビュー戦の内容から2番人気の支持を受けた同馬は、スタートから逃げた1番人気のサラトガビューティをすぐ後ろでしっかりマーク。直線でGOサインを出されるとあっという間に先頭へ立ち、あっさりと重賞初制覇を成し遂げてしまった。
しかもその勝ち時計は1分9秒8というレースレコード。同レースの優勝馬でこれを超えた馬は、20年近くが経った2025年現在でもわずか5頭しかいない。加えてアグネスワールドはノーステッキでの勝利だったのだから、その強さは際立っている。
アグネスワールドはその後、小倉の芝1200mで1分6秒5という時計で勝利して当時の日本レコードを樹立。さらにはイギリスとフランスでG1を制覇し、日本調教馬として初となる欧州2カ国でのG1勝利という快挙を達成した。
同馬を管理していた森調教師はのちに「スタートからアクセル全開で飛ばして途中でアクセルを緩めることを知らないから、どこかでガス欠を起こして止まってしまう。だから1200mでもちょっと長いくらい。一番いいのは1000m戦だった」と回顧している。そんな桁違いのエンジンを搭載したスピードスターが作り上げた功績は、今も色褪せることなく競馬界に輝いている。
【了】
(文●小早川涼風)
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