【武豊の“劇場型”G1制覇】(4)日本列島が激震…! 凄まじいハナ差勝負を制した熱狂と興奮の逃亡劇
1987年のデビューから38年。今年3月に56歳となった競馬界のレジェンド、武豊騎手はいまなお着実に勝ち鞍を重ねている。これまでJRAで挙げたG1勝利は通算84勝に達する(6/15現在)。どの美酒も味わい深かったに違いないが、中にはハラハラドキドキのG1制覇も少なくなかった。そこで武騎手のJRA・G1全84勝の中から“劇場型”と呼ぶにふさわしいレースを独断と偏見で5つピックアップした。時系列で紹介していこう。今回は4つ目。
④2016年天皇賞・春(キタサンブラック)
~驚異のスタミナと勝負根性でハナ差V~
平成の盾男の異名を持つ武豊騎手が、2016年の天皇賞・春で跨ったのは、前年の菊花賞馬キタサンブラックだった。1か月前の大阪杯(当時G2)で初めてコンビを組み、その関係は引退まで続くことになる。
このレースで1番人気に推されたのは、前年の有馬記念覇者で、5連勝中のゴールドアクター。キタサンブラックは僅差の2番人気に支持され、シュヴァルグラン、フェイムゲーム、サウンズオブアース、アルバートの計6頭が単勝オッズ10倍未満という混戦ムードだった。キタサンブラックが“指定席”の最内1番枠をゲットしたのは、前年のスプリングS以来2度目。逃亡劇を演じるにはこれ以上ない枠だった。
18頭がほぼ横一線のきれいなスタートを決めたが、2~3完歩目のダッシュを効かせたのはやはりキタサンブラックだった。外からハナを切る素振りを見せた馬も何頭かいたが、好枠を生かしたキタサンブラックが、すぐに主導権を握った。1周目の3コーナー坂の上りでペースを落ち着かせると、序盤の1000mを61秒8で通過。ややスローな流れを演出した。7ハロン目にややペースを上げ11秒6を刻んだが、その後は5ハロン続けて12秒台後半と、レースを落ち着かせ終盤に備えた。
そして迎えた2周目の3コーナー。淀の下り坂で武騎手がエンジンを吹かすと、キタサンブラックは残り800mからゴールまで11秒台のラップを刻み続けた。武騎手の絶妙な逃げに、キタサンブラックも呼応。余裕しゃくしゃくの手応えで最後の直線を迎えた。この時、道中で折り合いを欠いていたゴールドアクターは2番手まで進出していたが、キタサンブラックと脚色の違いは明らかだった。
残り400m地点でゴールドアクターが脱落すると、最後にキタサンブラックを捉えにかかったのが道中3番手を進んでいた13番人気の伏兵カレンミロティックである。終始、内々の経済コースを通り、虎視眈々と逆転を狙っていた。2頭が残り200mのハロン棒を通過すると、キタサンブラックがやや失速。勢いは明らかにカロンミロティックの方にあった。その後、アタマ一つ、いやクビほどカレンミロティックが前に出ただろうか、この瞬間に武騎手も負けを覚悟したはずだ。
ところが、キタサンブラックが驚異の粘り腰を発揮すると、内から盛り返し、最後は2頭の鼻面がそろったところがゴールだった。際どい写真判定の結果は、ハナ差でキタサンブラックの勝利。並みの逃げ馬なら交わされたところで諦めていてもおかしくなかったが、生まれ持った勝負根性がそれを許さなかった。
レース後、武騎手が口にした「キタサンブラックはさらに強くなりそうで楽しみです」という言葉はその後、現実のものとなった。
【了】
(文●中川大河)
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