皐月賞前にベテラン!? キャリア豊富な皐月賞馬(3)少年漫画のような物語…11番人気から栄光掴み二冠馬に
最近のクラシック戦線でよく聞く言葉のひとつに“本番直行”がある。これは2歳G1などに出走した馬が、トライアルレースを挟まずに一冠目のレースへ挑むことを指す。近年はこのローテーションの馬が増加し、キャリアの浅い馬が一冠目を制することも多い。逆に、本番までに多くのキャリアを積み重ね、一冠目を奪取した馬はどれほどいるのだろうか。今回は皐月賞が8戦目以上の馬の中から、5頭をピックアップして紹介する。今回は3頭目。

③1997年 サニーブライアン(皐月賞は9戦目)
1頭目に紹介したナリタタイシンのほかに9戦目で皐月賞を制した馬がサニーブライアン。だが、皐月賞への出走時点で重賞を制していたナリタタイシンとは違い、サニーブライアンの主な勝ち鞍はスローペースで逃げ切ったジュニアカップのみ。次走に選んだ弥生賞では勝利したランニングゲイルから1.1秒差の3着で、中1週で参戦した若葉Sも1番人気で4着。トライアルでは完敗といえるような内容だっただけに、皐月賞では11番人気の低評価となったのも仕方ないところだろう。
しかし、デビューから全てのレースでサニーブライアンに跨り、様々な脚質を試してきた大西直宏騎手は「キレはないが逃げればそうそうバテない」と感じていた。確固たる逃げ馬が不在だったこの年は、逃げたいサニーブライアンには願ってもない展開。皐月賞ではどんな枠でもハナを取る気でいた。
ゲートが開くと、大外から果敢にハナを取りに行ったサニーブライアンは、スタンド前で早くも後続に1馬身程の差をつけて逃げた。1コーナーで引っかかってきたテイエムキングオーに一度は先頭を譲るが、無理についていくことなく2番手へ控える。
向こう正面で先頭を取り返すと、勝負所で一気に再加速しラップを上げ、4コーナーの立ち上がりで後続には5馬身以上の差をつけて直線に向いてきた。後続もじわじわと追ってくるが、大西騎手が戦前に目論んでいた通り、道中を楽なペースで行けたサニーブライアンは脚が鈍らない。最後は迫るシルクライトニングをクビ差抑えて、栄光のゴールに飛び込んだ。
この皐月賞の10年前、大西騎手は日本ダービーでサニースワローに乗り、2着となっていた。しかし、この頃は騎乗数も多くなく、調教師への転身も考えていた。そんなタイミングで出会ったサニーブライアンの母サニースイフトは、そのサニースワローの全妹。自身の愛馬をダービー2着に導いた大西騎手に是非乗ってもらいたいと、彼女を所有したオーナーが大西騎手に依頼したという。皐月賞を前に連敗が続いたため、オーナーへ乗り替わりを推薦する声もあったというが「お世話になっている大西騎手にそんなことはできない」と、母の姉から続く絆を大事に、継続騎乗の姿勢を譲らなかった。
続くダービーも制し、10年越しのダービージョッキーと、世代の頂点に立つ二冠馬となった両者には、縁と経験によって紡がれたクラシックホースという、少年漫画のようなバックボーンがあった。
【了】
(文●小早川涼風)
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