【GⅠトレンドハンター 安田記念】「中距離からの転戦でも通用する」近年の傾向に適している馬とは…?
重賞レースのデータ分析では過去10年が一般的だが、競馬のサイクルは短く、10年前の結果は現在と大きく異なることも多い。近年はローテーションも変化し、GⅠ戦線のトレンドが進化している。今回は、“春のマイル王決定戦”安田記念の傾向をライターでGⅠトレンドハンターである勝木淳氏(@jamjam_katsuki)が考察する。
静かな前半に隠された駆け引きからの後半勝負
春の東京5週連続GⅠラストは安田記念。5つのうち3つは芝1600m。3歳、古馬牝馬、そして古馬とランク上昇につれ、厳しい戦いになっていく。東京マイルはスピードと持続力そして瞬発力も必要とする総合力勝負のコース。マイラーでさえも最後はしんどい。この3つのマイルGⅠはイメージとしては安田記念がもっとも厳しい流れになりそうだが、実は違う。ハイペースが多いのはマイルより短い距離に適性をもつ馬たちも出走するNHKマイルCであり、ヴィクトリアマイルは前後半イーブン、安田記念は後半勝負、いわゆる後傾ラップの出現率が高い。
歴戦のマイラーたちが集う安田記念はそう単純ではなく、仕掛けのタイミングなど駆け引きが奥深い。最後の直線にいかに体力を温存するか、ライバルたちとどれぐらい接近するのか、それとも先に離しておくのか。それら駆け引きが序盤を慎重な入りにさせる。まして、マイルは厳しいだろうという短距離型はまず出走しない。静かな前半に隠された駆け引きからの後半勝負。これが近年の安田記念のトレンドだ。
表中の落差の部分に注目してほしい。グランアレグリアがアーモンドアイを破った2020年を除けば、すべて後半が速い。21、22年に至っては1秒も違う。もちろん、条件戦のようなトロトロのスローにはならないが、トップクラスのマイラーなら追走に苦労しない流れではある。それでいて時計は31秒台が3回。後半600mすべて11秒台、区間によっては10秒台を叩きながら、それでいて失速しない。優れた性能を有していないと勝てない競馬だ。22年ソングラインとダノンキングリー以外はGⅠ馬。ソングラインは通算GⅠ3勝の名牝であり、ダノンキングリーは2019年ダービー2着馬なので、たとえ近走で結果が出ていなくても、安田記念にふさわしい格があれば逆転できる。
競馬は前半が上手くいかないと勝てない。前半でヘタを打っても、後半で挽回して勝つのはよほど力差がある場合に限られる。混戦を勝ち切るには序盤の入りが最重要といっていい。そう考えると、安田記念の前半はマイルGⅠにしては速くない流れになる以上、マイル以上の中距離適性の持ち主もレースに入りやすい。中距離馬は序盤ダッシュし、位置をとるとすぐにギアのニュートラルに入れ直し、落ち着きを取り戻しつつ、体力を温存するよう教え込まれる。マイルのハイペースだと、どうしてもスピード負けしてしまい、追走に余裕をなくし、精神的に追い込まれるが、安田記念にはそれがない。
むしろ中距離戦のように2ハロンほど落ち着いて走る区間すらある。マイラーと同じように体力を温存できれば、最後の体力勝負では長い距離に慣れている分、優位になる。レースの流れを考えるとき、前半、気分よくレースに入れそうな馬を探すと、伏兵も評価できる。安田記念は上記の通り、短縮型、マイルより長い距離に適性がある馬たちも泡を食わずにレースに入っていける。これを利用したい。前半、気分よく、精神的に普段通り戦える馬を探すのは、ひとつの必勝法でもある。