グラスワンダー~不屈の魂を持つ怪物。度重なる骨折を乗り越えグランプリ三連覇~
グラスワンダー(Grass Wonder)
1995年生まれの「黄金世代」を代表するグラスワンダー。米国生まれの怪物として輝かしい戦績を残す一方、怪我に悩まされ続けた。それを乗り越え、スペシャルウィークとの名勝負を演じ、史上2頭目のグランプリ3連覇を達成。その後種牡馬となり、スクリーンヒーローらを輩出し、偉大な血統は後世へ受け継がれた。
プロフィール
性別 | 牡馬 | |
父 | Silver Hawk | |
母 | Ameriflora | |
生年月日 | 1995年2月18日 | |
馬主 | 半沢 | |
調教師 | 尾形充弘 | |
生産者 | Phillips Racing Partnership & John Phillips(米) | |
通算成績 | 15戦9勝 [9-1-0-5] | |
獲得賞金 | 6億9164万6000円 | |
主な勝ち鞍 | 1997年 朝日杯3歳ステークス 1998年 有馬記念 1999年 宝塚記念 1999年 有馬記念 |
|
受賞歴 | 1997年 最優秀3歳牡馬 1999年 特別賞 |
|
産駒成績 | 産駒デビュー年:2004年 | |
通算重賞勝利数:29勝 | ||
通算G1勝利数:5勝 | ||
代表産駒 | スクリーンヒーロー(2008年ジャパンカップ) アーネストリー(2011年宝塚記念) |
栄光と挫折を味わった栗毛の怪物
【写真で見る】“栗毛の怪物”グラスワンダーの軌跡 ~スペシャルウィークとの激闘~
1995年生まれには数多くの名馬が誕生し、後にその世代を「黄金世代」と呼んだ。その代表格が世代のダービー馬スペシャルウィーク、二冠馬のセイウンスカイ、欧州でも活躍したエルコンドルパサー、そして怪物と呼ばれたグラスワンダーだ。
グラスワンダーは父Silver Hawk、母Amerifloraの間に米国で生まれる。デビュー前から評判が高く、のちに名コンビとなる的場均騎手も「モノが違う」と評し、その言葉は現実となった。
新馬戦、アイビーS、京成杯3歳Sを連勝し、2着につけた着差は合計14馬身。続く3歳王者を決める朝日杯3歳Sでは、のちのGⅠ馬(マイネルラヴ、アグネスワールド)も相手にせず1分33秒6のレコードで3歳王者に輝いた。そのあまりの強さから同じ栗毛の名馬マルゼンスキーの再来と言われた。
当時はクラシックレースに外国産馬が出走することはできなかったため、目標をNHKマイルCに定めたが、右後ろ足の骨折が判明し長期休養を強いられた。この栗毛の怪物は、引退するまでに輝かしい成績を残すのだが、それと同時に幾度もの怪我との戦いでもあった。
復帰戦は今なお伝説と語り継がれる1998年10月の毎日王冠。同世代のエルコンドルパサー、快速王サイレンススズカとの対決にGⅡとしては異例の13万人の観客が東京競馬場に詰めかけた。
GⅠさながらの盛り上がりの中、直線までは先頭集団に食らいついたグラスワンダーだったが最後は失速しての5着、初黒星を喫した。骨折明けの影響からか、かつての力強い走りができず次のレースでも敗戦を喫する。
「あの怪物の姿はどこにいったのか」、巻き返しの舞台に陣営が選んだのは年末の有馬記念だった。1年以上勝利がなく、距離不安もささやかれ人気は過去最低の4番人気となった。
しかし、怪物はやはり怪物だった。道中は中断で待機すると最後の直線で末脚が爆発、休養中のうっぷんを晴らすかのごとく同世代の二冠馬セイウンスカイを抜き去りグランプリ初制覇、年の瀬に強い怪物が戻ってきたのだ。
ここから上昇気流に乗るかと思われた矢先、またしても怪我。復帰は5月までずれ込んだ。復帰戦の京王杯スプリングCは勝利したものの、続く安田記念では直線で同世代のエアジハードに足をすくわれ2着と敗戦。なかなか波に乗れないまま春のグランプリ宝塚記念に出走する。
ここでは同世代のダービー馬で天皇賞(春)を制し絶好調のスペシャルウィークと初顔合わせとなった。人気はスペシャルウィークが1.5倍の1番人気、グラスワンダーは2.8倍の2番人気に甘んじた。
レースは前を進むスペシャルウィークをグラスワンダーは後ろから虎視眈々とマークする展開となった。最後の直線残り200mであっさりと追い抜き3馬身差をつける完勝、前年の有馬記念に続きグランプリ連覇を達成した。同世代のダービー馬を降し世代最強を印象づけるレースとなった。
更なる飛躍へ、休養を経て秋は復帰戦の毎日王冠を快勝。ジャパンCに向けて調整が進められたが、またしても脚部不安で回避することとなった。高いポテンシャルを持ちながら怪我と戦い続ける怪物。ファンは彼の復活を信じ、グランプリ3連覇に挑む有馬記念で1番人気に支持する。2番人気は宝塚記念で降したスペシャルウィークとなった。
最初の1000mが65.2秒とスローペースの展開のなかで迎えた最後の直線の攻防となる。前を走るグラスワンダー、追うスペシャルウィーク。両馬ほぼ並んでゴール板を駆け抜けた。写真判定の結果は4cm差でグラスワンダーが先にゴールしていた。この結果、史上2頭目のグランプリ3連覇を達成、長い競馬の歴史にその名を刻む快挙だった。
グラスワンダーは翌年も現役を続け、3戦を走ったあと種牡馬入りとなった。代表産駒のスクリーンヒーローからはGⅠ6勝馬モーリスが生まれ、そのモーリスの仔ピクシーナイトがスプリンターズSを勝利。グラスワンダーから数えて史上初父仔4代JRA GⅠ制覇の偉業を達成した。栄光と挫折を味わった栗毛の怪物の血は後世まで受け継がれている。
※本文中の馬齢は当時の表記
【了】
(文●目白明)