フジキセキ ~無敗のまま引退。全貌を見せずターフを去った天才の軌跡~
フジキセキ(Fuji Kiseki)
日本競馬の発展を早めたといわれる、偉大なる種牡馬サンデーサイレンス。その初年度産駒として、鮮烈な走りを見せたのがフジキセキである。デビュー戦から圧倒的な力を示し、3連勝で朝日杯を制覇した。だが、クラシックへの期待が高まった矢先、屈腱炎で無念の引退。その後は種牡馬として安定した活躍を見せ、多数のG1馬を輩出した。母方の祖父としても競馬界に影響を与え続ける名馬である。
父 | サンデーサイレンス |
母 | ミルレーサー |
生年月日 | 1992年4月15日 |
馬主 | 齊藤四方司 |
調教師 | 渡辺栄 |
生産者 | 社台ファーム (千歳市) |
通算成績 | 4戦4勝【4-0-0-0】 |
獲得賞金 | 1億2965万0000円 |
主な勝ち鞍 | 1994年 朝日杯3歳ステークス(G1) |
受賞歴 | 1994年 最優秀3歳牡馬 |
産駒成績 | 産駒デビュー年:1998年 |
通算重賞勝利数:78勝 | |
通算G1勝利数:14勝 | |
代表産駒(主な勝ち鞍) |
カネヒキリ(2005年、2008年ジャパンカップダート) キンシャサノキセキ(2011年高松宮記念) イスラボニータ(2014年皐月賞) |
全貌を見せずにターフを去った天才
日本競馬の歴史を10年、20年早めたとされる名種牡馬サンデーサイレンス。その評判をまず初めに高めたのは間違いなくフジキセキであろう。サンデーサイレンスの初年度産駒としてこの世に生を受け、彼も父と同じように日本競馬界に多大な影響を与えた。
1992年4月15日に産まれ、「富士山+輝石、軌跡、奇跡」の意味を込めてフジキセキと名付けられる。
デビューを控えた1994年、同じサンデーサイレンスの初年度産駒はすでに躍動していた。そのなかでも関係者からの評判が良かったフジキセキはどれほどのものなのか、という期待が膨らんでいた。
数多くの耳目を集めた期待の若駒は、8月20日に新潟競馬場で遂にベールを脱ぐ。が、ゲート試験の合格に5回かかったフジキセキは、スタートで出遅れてしまう。1200m戦のレースで出遅れは痛い。しかし、気づけば最後の直線では独走していた。みるみる差を広げていき、その差は2着馬に8馬身をつけるまでに至った。
ここまで強いレースをされると逆らう理由が見つからない。続いてのもみじSでは単勝1.2倍の1番人気になる。今回はスタートもスムーズに出た。6番手でレースを進め、3コーナーで進出開始。4コーナーでは馬なりで早くも先頭に並びかける。
他馬の騎手がムチを使い懸命に促すなか、フジキセキは軽く促されただけで先頭に立つ。再び独走かと思われたが、背後から一頭の黒鹿毛の牡馬が迫ってくる。なんとか捉えようと、鞍上が持てる全ての力を使って並びかけようとするが、フジキセキの鞍上・角田晃一はムチを使うことなくそのまま先頭でゴールを駆け抜けた。
レコード勝ち。一杯に追っていないにも関わらず叩き出した破格のタイムに加え、懸命に追ってきた黒鹿毛の牡馬は、後のダービー馬となるタヤスツヨシだった。フジキセキの力がいかに抜けていたのか、このレースだけでも分かるだろう。
そして、3歳の頂点を決める舞台である朝日杯3歳ステークスへ。最内枠を活かしてスタートからラチ沿いを走り、3番手で最終直線へ。そのまま逃げ馬の内をすくい先頭に立つ。追い込んでくるスキーキャプテンをクビ差で凌ぎ、肩ムチ一発のみという先を見越した競馬で見事GⅠ馬になった。ただ、このGⅠはあくまでも通過点。彼の使命は三冠馬になることだ。
年が明け、皐月賞を見据え、同じ舞台の弥生賞に出走する。前走から+16キロの馬体重であるうえに当日は重馬場であった。しかし、フジキセキの前では何ひとつ問題とはならなかった。
1コーナーから先頭に立つ勢いであったが、2番手に控える。4コーナーでは早くも先頭に立って独走するかと思われたところ、2番人気のホッカイルソーが並んできた。フジキセキ危うしか、と思ったのも束の間、異次元の二の脚で再び加速して2馬身1/2差をつけた。
いよいよクラシックがはじまる、というときに左前脚に屈腱炎を発症してしまう。復帰まで1年以上かかることから止む無く引退し、種牡馬入りすることになった。
その後、父サンデーサイレンスの代替種牡馬として人気を集めた。産み出した1996年~2011年における全ての世代で重賞馬を出す抜群の安定感を誇っている。
もちろんG1馬も多数輩出しているが、後継種牡馬として明確な存在は出ていない。しかし、ブルードメアサイアー(母方の祖父)としては長期にわたって好調をキープした。
引退後にサンデーサイレンス産駒が日本競馬界を席巻したのを見ると、その輪のなかにフジキセキが加わっているのを見てみたかった。彼が輝石だったのかどうか、どのような軌跡を描いたのか。そんな答えを知る奇跡がよもや起こらないことは分かっているが、忘れ去るにはあまりにも鮮明すぎた。
※文中の馬齢は当時の表記。
【了】
(文●沼崎英斗)