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マルシュロレーヌ ~誰も成し遂げられなかった偉業。“最凶”の血が騒いだ海外ダートGⅠ初制覇~

text by 中西友馬

マルシュロレーヌ(Marche Lorraine)

日本のダート馬がアメリカの強豪相手にどれだけ戦えるのか。その挑戦に果敢に挑み、日本馬として初めてBCディスタフを制したのがマルシュロレーヌだ。2021年の歴史的なレースで、世界が驚いた圧巻の勝利。その後も続く挑戦者たちに希望を与えた彼女の偉業を振り返る。

Getty Images

プロフィール

性別 牝馬
オルフェーヴル
ヴィートマルシェ
生年月日 2016年2月4日
馬主 キャロットファーム
調教師 矢作芳人
生産牧場 ノーザンファーム
通算成績 22戦9勝【9-2-2-9】
獲得賞金 3億6944万円
主な勝ち鞍 BCディスタフ(2021年)
受賞歴 NAR特別表彰馬(2021年)
産駒成績 産駒デビュー年:2025年(予定)
通算重賞勝利数:0勝
通算G1勝利数:0勝
代表産駒 特になし

交流重賞から世界へ。日本馬に夢を与える偉業

 国内のレースと同じように海外競馬の馬券が買えるようになって、早8年。馬券が買えるようになったことで、競馬ファンの海外競馬に関する注目は飛躍的に高まった。それと同時に、海外競馬における日本馬の活躍は目覚ましく、日本の競馬が世界的に見ても高いレベルであることを証明しつつある。

 近年はひと昔前の競馬ゲームのように、芝なら欧州、ダートなら米国というだけではなく、サウジアラビアやオーストラリアなど、レースの選択肢も多岐に渡っている。それでもやはり、凱旋門賞やブリーダーズカップという昔から知っているビッグネームのレースとなると、関心の高まりから馬券の売り上げも伸びるそうだ。

 そんなブリーダーズカップにおいて、日本調教馬として初めて、国外のダート国際G1を制した馬がマルシュロレーヌである。

 マルシュロレーヌは、3歳2月という比較的遅めのデビューで、4歳の夏までは芝路線を歩んでいた。芝でも3勝を挙げ、3勝クラスの突破にもメドが立っていたが、4歳の9月に初のダートに挑戦。その桜島Sを快勝し、それ以降はダート路線へと矛先を向けた。

 その後は、牝馬の交流重賞を中心に活躍。そこから1年足らずのうちに重賞タイトルを4つ獲得し、5歳秋の最大目標に設定したのがBCディスタフであった。

 国内の牝馬ダート路線ではトップクラスの成績を収めていたが、牡馬に挑戦した帝王賞では8着。国内のレースを見ているだけでは歴代最強クラスの牝馬とまでは思えなかっただけに、前年3着に敗れたJBCレディスクラシックのタイトルを取りに行くのが賢明な判断に思えた。

 しかしマルシュロレーヌ陣営は、果敢に本場アメリカのBCディスタフに挑戦。日本での馬券発売はないレースであったが、現地での評価は11頭立ての9番人気と伏兵扱い。それもそのはず、マルシュロレーヌの重賞勝利は全て交流重賞で「Jpn」という日本独自のグレード。海外に出てしまえば、重賞未勝利の馬がブリーダーズカップに挑戦していることになるのだ。

 しかしマルシュロレーヌは、先行勢が軒並み失速する800m44秒台という超ハイペースを、早め先頭から押し切る強い競馬で勝利。日本の芝並みのペースと勝ち時計であったが、米国馬にスピード負けすることなく勝ち切ってみせた。

 それまで、日本馬は同じ海外でも、ドバイや香港など比較的日本の馬場に近い地での活躍が多かった。未だ凱旋門賞を勝てていないように、ダート路線でも本場アメリカの馬にはスピードで敵わないというのが定説であった。

 しかし、マルシュロレーヌはそれを見事に覆し、芝だけでなく日本のダート馬のレベルの高さも証明してみせた。今年、2024年のBCクラシックには日本馬が3頭出走予定。マルシュロレーヌが切り拓いた道を進み、さらなる歴史の扉を開く馬が現れるのか楽しみである。

(文●中西友馬)

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