ハーツクライ ~ディープインパクトを負かした衝撃の有馬記念。今も響きつづける魂の叫び~
ハーツクライ(Heart’s Cry)
2005年の有馬記念。ハーツクライが無敗の三冠馬であるディープインパクトに土をつけたレースだ。ハーツクライはこのレースで競馬ファンの記憶に深く刻まれる存在となった。その後はドバイシーマCを制するなど海外でも活躍し、日本馬の実力を証明した。産駒にはドウデュースやリスグラシューらが続き、伝説の血は今も輝き続けている。
プロフィール
性別 | 牡馬 | |
父 | サンデーサイレンス | |
母 | アイリッシュダンス | |
生年月日 | 2001年4月15日 | |
馬主 | 社台レースホース | |
調教師 | 橋口弘次郎 | |
生産牧場 | 社台ファーム | |
通算成績 | 19戦5勝【5-4-3-7】 | |
獲得賞金 | 5億5573万円 | |
主な勝ち鞍 |
有馬記念(2005年) ドバイシーマクラシック(2006年) |
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受賞歴 | 最優秀4歳以上牡馬(2005年) | |
産駒成績 | 産駒デビュー年:2010年 | |
通算重賞勝利数:83勝 | ||
通算G1勝利数:15勝 | ||
代表産駒 |
ドウデュース(2022年東京優駿) シュヴァルグラン(2017年ジャパンC) ジャスタウェイ(2014年安田記念) |
ディープを負かした唯一の馬
「ハーツクライのベストレースと言えば?」というアンケートを取れば、まず間違いなく第1位となるのは、ディープインパクトに国内唯一の土をつけた、2005年の有馬記念だろう。たしかにこのレースは衝撃的であった。これまでのレースぶりを見て、負けるイメージの湧かなかったディープインパクトを、いつもの戦法と違う先行策で封じ込めたハーツクライ。馬の強さはもちろんだが、ルメール騎手の巧さが光ったレースでもあった。
しかし、その翌年の海外遠征2戦も、有馬記念に勝るとも劣らないレース内容である。まずはドバイシーマクラシック。英オークスなどG1を4勝しているウィジャボードや、同じく香港CなどG1を4勝しているアレクサンダーゴールドランを筆頭とした海外勢相手に、初の海外遠征となったハーツクライ。
2走前までのように後方待機策で挑むのか、それとも前走の有馬記念同様に先行策に打って出るのか、ファンが固唾を飲んで見守る中、とった戦法はデビューから今まで一度もしたことのない逃げの手。初の海外遠征で引っかかっているわけではない。しっかりと息を入れた逃げを見せ、一度引きつけた後続を再度突き放す強い競馬を披露。最後は2着馬に4馬身以上の差をつける圧勝劇で、世界にハーツクライの強さを見せつけた。
ただ、これ以上のインパクトを残したとも言えるのが、その後に挑戦したキングジョージ。頭数こそ6頭と少頭数であったが、前年の凱旋門賞覇者ハリケーンランや、同年のドバイWC覇者エレクトロキューショニストがいる豪華メンバー。2006年当時、まだ日本調教馬が勝利したことのないふたつのビッグレースを制している馬たちを相手に、相手のホームグラウンドとも言える欧州の馬場で挑戦しているという構図。日本人である私でも、客観的に見てかなり無謀な挑戦にも思えた。
しかし、ハーツクライはその2頭とがっぷり四つに組み合い、残り300mでは完全に外から2頭をねじ伏せて先頭へと立った。このまま押し切るかに思われたが、残り150mで盛り返してきた2頭に再び並ばれると、さすがのハーツクライにも抵抗する余力は残っておらず、結果は悔しい3着。それでも直線の3頭での叩き合いに、胸を熱くしたファンは多いことだろう。
日本と世界との差は確実に縮まっているということを、ハーツクライが自身の走りで証明してくれたのである。能力の衰えではなく、のど鳴りに悩まされての現役引退となってしまったことが、本当に悔やまれる名馬であった。
(文●中西友馬)