⑤1998年(勝ち馬オフサイドトラップ)
4歳(現3歳)馬のバブルガムフェロー、牝馬のエアグルーヴが勝利した次の年、1998年の天皇賞(秋)を制したのは、史上初となる8歳(現7歳)での天皇賞制覇を果たした、オフサイドトラップであった。
この年の注目は、前年大逃げで観客を沸かせたサイレンススズカ。5歳(現4歳)となって覚醒を果たしたサイレンススズカは、この年6戦6勝。宝塚記念でG1初制覇を飾り、直前の毎日王冠では59キロを背負いながら、エルコンドルパサー、グラスワンダーとの3強対決を制していた。まさに向かうところ敵なしといったところで、単勝1.2倍という断然の1番人気。どんな派手なレースで勝利してくれるかという、ファンの期待を一身に背負っていた。
レースは、最内枠から好ダッシュを決めたサイレンススズカが、鞍上の武豊騎手が促すこともなく先頭へと立つ。飛ばしているように見えなくても、後続との差はみるみるうちに広がり、前年の58秒5よりさらに1秒以上速い57秒4で、前半の1000mを通過。2番手のサイレントハンターとの差は10馬身以上、さらにそこから3番手以降とも10馬身ほどの差がついていた。
観客のボルテージは最高潮に高まった4角手前。その歓声は突然悲鳴へと変わった。先頭を走っていたサイレンススズカに異変が起き、突如失速。全馬が通り過ぎた後にゆっくりと馬場の外側へと寄っていき、競走を中止した。
代わってサイレントハンターが先頭に立ち、最後の直線へと向かう。残り400mでサイレントハンターを捕えてオフサイドトラップが先頭に立つと、その直後からステイゴールドが伸びてくる。差し切る勢いにも見えたが、序盤のハイペースに脚を削られていたせいか、残り200mからは苦しくなって内にササったステイゴールドを抑えて、オフサイドトラップが勝利した。
競走中止となったサイレンススズカは予後不良と診断され、安楽死の処置がとられた。
勝ったオフサイドトラップは、史上初となる8歳(現7歳)での天皇賞制覇を達成。4歳(現3歳)時から屈腱炎と戦い、何度も休養を挟みながらもカムバックしてやっと掴んだ栄光。それは不屈の闘志を持ったオフサイドトラップと、諦めずにケアし続けた陣営の努力の賜物であった。
(文●中西友馬)