⑩2020年(勝ち馬デアリングタクト)
アーモンドアイの勝利から2年。史上6頭目の三冠牝馬は、過去の5頭がいずれも達成できなかった、無敗での戴冠。それを達成したのがデアリングタクトであった。
この世代で最初に結果を出したのは、レシステンシア。新馬戦、ファンタジーステークスと連勝で迎えた阪神ジュベナイルフィリーズで5馬身差の独壇場であった。一躍世代のトップに躍り出た。
しかし、単勝1.4倍の断然人気に支持された桜花賞トライアルのチューリップ賞で、まさかの3着敗戦。デビューからの連勝が3でストップすると、本番の桜花賞では1番人気ながら3.7倍とファンの信頼が揺らいだ印象を受けた。
そこに肉薄する4.2倍の支持を受けて2番人気となったのが、デアリングタクトであった。デアリングタクトは4馬身差で圧勝したエルフィンステークスからの臨戦であった。ただ、キャリアはまだ2戦で、G1はおろか重賞への出走経験すらなかった。それでもレシステンシアが敗れた状況で、未知の魅力を期待されての2番人気であった。
そして実際にレースでも、雨馬場に脚を取られる馬が多い中、後方から桁違いの脚で差し切っての勝利。2着レシステンシアに1馬身半の差をつけ一冠目を手中に収めた。
続くオークスでは、直線で前が塞がり、なかなか進路を確保できないピンチに陥る。しかし一瞬前が開いた隙間に飛び込んで進路を確保すると、前をきっちり捕えて二冠達成。三冠目の秋華賞へは前哨戦を使わず、オークスからのぶっつけで挑むこととなった。
そして迎えた秋華賞。この年は牡馬三冠路線でもコントレイルが無敗で春の二冠を制しており、ともに無敗での三冠獲得に期待がかかっていた。そんな中、デアリングタクトは単勝オッズ1.4倍。圧倒的な1番人気に支持されて発走を迎えた。
レースはマルターズディオサの逃げで、前半1000mの通過は59秒4とほぼ平均ペース。デアリングタクトは中団後方寄りからの競馬となったが、内回りコースを意識して、ペースの落ちた向正面で早めに進出を開始した。4角では好位にとりつき、最後の直線に向かう。
直線は内外に大きく広がっての追い比べ。残り200mまでマルターズディオサが粘っていたが、それを離れた外からデアリングタクトが捕えて先頭に立つ。内外から後続各馬が追い上げるも、それを振り切って優勝した。2着に勝ち馬の内から伸びたマジックキャッスル、3着には大外を伸びたソフトフルートが入った。
史上初となる無敗での牝馬三冠を達成したデアリングタクトは、同じく翌週の菊花賞を勝利して三冠馬となったコントレイルとともに、ジャパンカップに出走した。立ちはだかる2歳上のアーモンドアイを交えた三冠馬対決に、ファンは熱狂した。
牝馬三冠の最終戦としての役割を果たす秋華賞。牡牝三冠レースで唯一、クラシックという扱いではないが、クラシックレースに負けず劣らずの盛り上がりを毎年見せているレースである。
(文●中西友馬)