⑧2012年(勝ち馬ジェンティルドンナ)
史上3頭目となるアパパネの牝馬三冠から2年が経った2012年。史上4頭目のトリプルティアラ達成はジェンティルドンナであった。
この世代で一番最初に脚光を浴びたのは、天才少女ジョワドヴィーヴル。ブエナビスタやアドマイヤオーラの半妹となる超良血馬で、新馬戦を快勝後には2戦目にして、G1阪神ジュベナイルフィリーズを選択した。
これを勝利したジョワドヴィーヴルは、デビュー1ヶ月足らずで世代の頂点に立ったのであった。しかし桜花賞トライアルのチューリップ賞で3着に敗れると、桜花賞本番でも6着。さらにレース後に骨折が判明し、戦線離脱となってしまった。
この桜花賞を制したのが、ジェンティルドンナであった。続く、オークスを5馬身差の圧勝。二冠目も手中に収めると、秋華賞トライアルのローズステークスも勝利。盤石の形で秋華賞本番を迎えていた。
一方、桜花賞、オークス、ローズステークスともにジェンティルドンナに苦杯を飲まされていた馬がいた。3戦すべてで2着のヴィルシーナだ。それだけに、三冠目だけは絶対に譲れないという思いは誰よりも強かった。
レースは、最内枠から押して先手を取りにいったヴィルシーナがハナ。デビューから一度も逃げたことのない馬が、奇襲とも言える逃げの手に出た。しかし向正面でペースが緩んだところを、最後方にいたチェリーメドゥーサがひとまくり。これでペースは上がったが、それでも1000mの通過は62秒2とかなりのスロー。ヴィルシーナは離れた2番手につけ、ジェンティルドンナは中団からレースを進める。
チェリーメドゥーサの大逃げのような形で4角を回り、最後の直線へと向かう。ジェンティルドンナは3角から鞍上の手が動き、直線でも反応が鈍い。チェリーメドゥーサの奇襲が決まったかに思ったが、やっとエンジンのかかったジェンティルドンナとヴィルシーナが併せ馬の形で伸びてきて、残り50mで前を並ぶ間もなく抜き去っていた。2頭並んでゴール線を通過したように見えたが、写真判定の結果、ハナ差でジェンティルドンナの勝利。たった7センチという微差での決着であった。
この結果、ジェンティルドンナは史上4頭目の牝馬三冠を達成。対するヴィルシーナは、牝馬三冠すべてで2着という史上初の記録を達成することとなった。同世代にジェンティルドンナさえいなければ、この馬が牝馬三冠を達成していたのでは…
競馬にたらればは禁物だが、そう思わせるヴィルシーナの走り。主役はもちろんジェンティルドンナで間違いないのだが、そのジェンティルドンナを7センチ差まで追い詰めたヴィルシーナの魂の走りにも心を打たれる、まさに名勝負であった。