⑦2010年(勝ち馬アパパネ)
1000万馬券が飛び出した大波乱の翌2009年。こちらもある意味での波乱が起きた。ブエナビスタが負けたのである。桜花賞とオークスを勝ち、史上3頭目となる牝馬三冠達成に王手をかけていたが、降着もあって3着に敗れた。
3つ勝つことの難しさを目の当たりにしたわけだが、その翌年にも、牝馬三冠に王手をかけて秋華賞を迎える馬が現れた。それがアパパネであった。
アパパネは、2歳時に阪神ジュベナイルフィリーズを勝利。そこからこの世代のトップをひた走ってきた。戦績を見ると文句のつけようがない結果を残しているのだが、なぜか少し地味な印象を抱かれる馬であった。
その大きな理由は勝ち方。阪神ジュベナイルフィリーズ、桜花賞ともに2着につけた差は半馬身。オークスに至っては、G1史上初となる同着優勝。後続を大きく突き離す、派手な勝ち方はひとつもなかった。
ただ、裏を返せば負けない馬ともいえた。接戦になっても前には出させない勝負根性が、アパパネのセールスポイントであった。
そして秋華賞を迎えた。前哨戦のローズステークスで4着に敗れたこともあり、単勝オッズは2.3倍。もちろん1番人気ではあったが、前年のブエナビスタが1.8倍であることを考えると、やや三冠獲得を疑問視されているオッズであった。
レースはアグネスワルツがハナを切り、後続を10馬身ほど突き離す大逃げの形となる。前半1000mは58秒5の先頭通過であったが、2番手以降は平均やや遅めかというペースであった。アパパネは中団外めからの追走。先頭からは20馬身ほど離れた位置からのレースとなった。
4角手前ではアグネスワルツのリードが小さくなり、馬群が一気に凝縮した。アパパネも先頭を射程圏内に入れて、最後の直線に向かう。先行集団の外から力強く伸びたアパパネが、ねじ伏せるように先頭に立つと、最後は後続に3/4馬身差をつけて勝利。史上3頭目となる牝馬三冠を達成した。
2着には馬群を縫うように追い込んできたアニメイトバイオ、3着にはインを立ち回ってしぶとく粘ったアプリコットフィズが入った。
やはり秋華賞もぶっちぎる走りではなかったが、負けそうな場面はないレースであった。鞍上の蛯名騎手も、抜かせない勝負根性を信頼しているからこそ、余裕を持って騎乗していたように見えた。
アパパネは現役引退後、繁殖牝馬となった。そしてディープインパクトとの間に、4番仔となる牝馬が生まれる。その名はアカイトリノムスメ。
両親ともに金子真人オーナー所有だった、夢のような配合のこの馬は、母アパパネの勝利から11年後の2021年、秋華賞史上初となる母仔制覇を達成。アパパネは、母としても歴史に名を残す名馬となった。