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根岸競馬場での春季競馬 1934年(昭和9)【馬の博物館所蔵】
根岸競馬場での春季競馬 1934年(昭和9)【馬の博物館蔵】

世界有数の規模へと成長した日本競馬。その150年の歩みは、開国や戦争、制度改革といった日本近代史の転換点と重なっている。本特集では、その歴史を五つの視点から読み解いていく。[5/5ページ]

第5章「1500年の馬事文化」

~馬の博物館が伝える日本の馬事文化~

 競馬の歴史を語るとき、秋永さんはさらに長い時間軸を示す。

「日本に馬が入ってきたのは古墳時代といわれています。埴輪などからも、当時すでに馬が重要な存在だったことが分かります」

 武士の時代には軍事の中心となり、江戸時代には東海道を往来する物流を支えた。

「時代ごとに役割は変わりますが、馬は常に日本人の生活と深く結びついていました」

 競馬は、その1500年に及ぶ馬事文化の延長線上に位置している。

 横浜・根岸に建つ「馬の博物館」も、そうした長い歴史を伝える貴重な存在だ。競馬の歴史だけでなく、美術・民俗・信仰など、多様な角度から“馬”を伝えていく。

 さらにこの博物館の特徴の一つが、ポニーセンターの存在である。

「当館では繋養馬を“展示馬”と呼んでいます。実際に活馬を見てもらうこと自体が、大切な展示なんです」

 サラブレッドだけでなく、在来馬やポニーなど、さまざまな馬と触れ合える場を設けてきたのも、馬を身近に感じてもらうためだったという。

「いまは馬が日常の中にいる動物ではありません。だからこそ、実際に見て、感じてもらうことが大切だと思っています」

 現在、馬の博物館は2029年のリニューアルオープンに向けて休館中だ。

 背景には、建物の老朽化と設備面の課題がある。

「50年が経ち、空調や収蔵環境などに課題が出てきました。博物館は温度や湿度の管理が非常に重要ですから、その改善が大きな理由です」

 加えて、バリアフリー対応や収蔵庫の拡充といった課題もあった。

「資料は増えていきますが、簡単に処分することはできません。未来に残していくための環境整備が必要でした」

 リニューアル後も、馬との触れ合いスペースは継続される予定だという。

「競馬の歴史を伝えるだけでなく、馬そのものの魅力も感じてもらえる場所にしたいですね」

 レースの興奮の裏には、外交の思惑があり、戦争の影があり、制度改革の努力があった。そしてそのさらに奥には、1500年続く馬と人との関わりがある。

 日本競馬150年の歩みは、日本近代史の縮図であると同時に、日本人と馬との関係の歴史でもある。

 その背景を知るとき、私たちが目にする一戦一戦は、単なる勝敗を超えた意味を帯びてくるはずだ。

【了】
【著者プロフィール:中西友馬】
1993(平成5)年6月18日、神奈川県横浜市生まれ。大学卒業後、競馬新聞社に入社し、約7年間専門紙トラックマンとして美浦に勤務。テレビやラジオでのパドック解説など、メディア出演も行っていた。2024年よりフリーライターとしての活動を始め、現在は主に、株式会社カンゼンが運営する競馬情報サイト『競馬チャンネル』内の記事を執筆している。

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