日本馬が凱旋門賞に挑戦しづらい理由
先述した芝2400mの世界レコードホルダーであるアーモンドアイや、同じく芝2000mの世界レコードホルダーであるイクイノックスは、凱旋門賞に挑戦していない。
やはり海外遠征はリスクを伴う。まして今まで日本調教馬が一度も勝てていない、欧州のタフな馬場を走ることで馬に異変をきたす可能性がある、と考えるのは普通のこと。
高速馬場への適性がある=タフな馬場に適性がない、ということではないが、血統や日本でのレースぶりから、欧州の馬場に適性がありそうな馬であることが遠征条件のような形になっていることも事実である。
また、先ほど挙げた2頭はクラブ所有馬であることも大きい。数多くの会員が出資しているクラブの所有馬であれば、確実に稼げるであろう日本国内のレースを捨て、遠征費を払って凱旋門賞を取りに行くというプランに難色を示す会員も多いだろう。その点を考えると、日本調教馬初という名声が得られる個人馬主のほうが挑戦しやすいというのもうなずける。
ある程度日本のG1で結果を残し、かつタフな馬場への適性を見せ、かつ個人馬主所有が望ましい。この条件に当てはまる馬となると、挑戦する馬が限られるのは仕方のないことである。
また、中央競馬にG1が2つしかないダートと違い、芝を主戦場にする馬からしてみれば、中央競馬だけでもレースの選択肢はかなりある。さらには海外遠征をするにしても、日本の馬場により近く、日本調教馬も結果を残しているドバイや香港を選ぶ馬のほうが多くなるのは必然であろう。現にアーモンドアイやイクイノックスも、春のドバイ遠征は行っている。こう考えると、凱旋門賞は日本の競馬が進んでいる方向と真逆の位置にあるレースと言える。
それでもなぜ、毎年のように国内で大きく取り上げられ、テレビの地上波放送などもあるのか。それはただ一つ、日本調教馬が一度も勝ったことがないからに他ならない。
世界的に最高峰とされるレースに、日本調教馬が勝ったことがない。なら、自分の携わった馬が歴史の扉を開きたい、というホースマンの夢が乗っかっているからこそ、メディアも取り上げやすいという側面がある。
もし今後、日本調教馬が凱旋門賞を勝った場合、その後に挑戦する馬は激減する可能性もある。なぜなら凱旋門賞の1着賞金は約4億円。ジャパンカップや有馬記念の1着賞金が5億円であることを考えると、難易度やリスクとつり合っていないように感じるからだ。
いま凱旋門賞に挑戦しているのは、日本調教馬初の快挙という夢を追っている部分もあり、日本馬が欧州馬に劣っていないことを証明するために、アウェイの地で戦っているのである。