
どれほど輝かしいキャリアを築いた騎手でも、必ず「G1初制覇」という特別な瞬間が存在する。あっさりとG1の壁をクリアした者もいれば、何度も跳ね返され、苦悩の末にようやくタイトルを掴み取った者もいる。今回は騎手のG1初制覇の中から、特に“劇的”だった5人を厳選。その一戦一戦をじっくりと振り返る。[5/5ページ]
——————————
⑤三浦皇成
2025年スプリンターズS ウインカーネリアン
競馬ファンのみならず一般の方でも顔と名前を知っており、圧倒的な知名度を誇る武豊騎手。
歴代最多勝利数に始まり、競馬界のさまざまな記録も保持している大レジェンドであるが、そんな武豊騎手が保持していた記録のひとつが、新人年間最多勝記録。
そのレジェンドの記録を、69勝から91勝へと大きく塗り替えたのが、2008年デビューの三浦皇成騎手であった。
そんな華々しいデビューを飾った三浦騎手だったが、その後はルーキーイヤーの91勝がキャリアハイのまま年月が過ぎていく。2019年に102勝を挙げて自身初の年間100勝を達成するも、JRAのG1タイトルにはなかなか手が届かなかった。
しかしその間に、G1タイトルに迫った瞬間は何度かあった。2014年は、NHKマイルカップと安田記念で2着。17番人気と16番人気の馬を2着に持ってきているのだから称賛される騎乗なのだが、1ヶ月の間に2度のG1・2着は悔しかったことだろう。
特に安田記念のグランプリボスは、世界一となったジャスタウェイの柴田善臣騎手と雨中の叩き合い。本当に大きなハナ差であった。
その後、G1での2着はなかったが、ホープフルステークスでのランドオブリバティの競走中止や、ギルデッドミラーのフェブラリーステークス直前の骨折による引退。
G1を勝つチャンスがありそうなお手馬にアクシデントが続き、2023年にはついに、JRA・G1未勝利のまま通算1000勝を達成するという、JRA史上初の騎手となっていた。
いつしか、「三浦皇成はG1では買えない」と言われることも増え、三浦騎手本人も「自分はG1を勝てないんじゃないか」と思うようになっていったそうだ。
そんな三浦騎手が、ついにG1タイトルを掴んだ。ウインカーネリアンとのコンビで挑んだ2025年のスプリンターズステークス。11番人気の伏兵評価であったが、2番手追走から直線で逃げるジューンブレアをアタマ差交わしての勝利。
その交わした相手は、奇しくも17年前にも追い抜いたはずのレジェンド武豊騎手。三浦騎手127回目の騎乗となるJRA・G1でついに掴んだ勝利は、アタマ差交わした武豊騎手ではなく、17年前の自分自身を超えた瞬間であった。
このように、今回紹介した5人はいずれも、劇的な勝利でG1初制覇を飾った騎手ばかり。
江田照男騎手のようにG1初騎乗で初勝利を飾る騎手もいれば、三浦皇成騎手のように127回目の騎乗で初勝利を挙げる方もいるというのが、競馬の面白さでもある。
2026年はどの騎手がG1初制覇を達成するのか、楽しみにしながら見ていきたい。
【了】
【著者プロフィール:中西友馬】
1993(平成5)年6月18日、神奈川県横浜市生まれ。大学卒業後、競馬新聞社に入社し、約7年間専門紙トラックマンとして美浦に勤務。テレビやラジオでのパドック解説など、メディア出演も行っていた。2024年よりフリーライターとしての活動を始め、現在は主に、株式会社カンゼンが運営する競馬情報サイト『競馬チャンネル』内の記事を執筆している。
【関連記事】
・【有馬記念連覇に挑んだ名馬 5選】難しいからこそ燃える!年末グランプリの高い壁



