G1の舞台で、兄と弟が真っ向勝負。競馬界を代表する名騎手・武豊と、現調教師であり元騎手の弟・幸四郎。2人がともに現役だった時代には、バチバチの兄弟対決が実現した。特にG1の舞台でそれぞれが人気馬に騎乗する際は、ファンの注目も高まった。そこで今回は、そんな兄弟対決の中から、記憶に残る名勝負5戦を振り返る。[4/5ページ]
④2013年 秋華賞

■騎乗馬
豊:スマートレイアー
幸四郎:メイショウマンボ
2010年代に入って、武兄弟には大きな変化が訪れていた。
兄である豊騎手は毎日杯での落馬事故を経験して以降思うように成績が上がらず不振に。
幸四郎騎手も成績が急降下し、2011年には年間勝利数がキャリア最低の7勝まで落ち込むなど、完全なスランプに突入していた。
しかし、2013年に入るとその長いトンネルに光が見え始める。幸四郎騎手がメイショウマンボでオークスを勝利し、10年ぶりとなるG1制覇を飾ると、翌週の日本ダービーを豊騎手がキズナで1着。兄弟で2週連続の復活勝利を挙げてみせた。
そして秋、幸四郎騎手はそのメイショウマンボで秋華賞に臨む。だが人気は3番人気と低評価。前哨戦を負けたことで馬券人気は下降していた。
一方、兄の豊騎手は4戦3勝の上り馬、スマートレイアーで参戦。初出走が桜花賞の日という遅いデビューながら順調に力をつけ、なんとか最後の一冠に間に合った彼女の評価はオークス馬を上回る2番人気と高かった。
レースは逃げたビーナストリックが58秒9というハイペースで引っ張り、先団の馬たちにはつらい展開。加えて勝負所で馬群は凝縮し、中団以降の馬では進路を無くす馬も少なくなかった。
だが幸四郎騎手はコーナーで相棒を一番いい場所に誘導し、直後にいたデニムアンドルビーとスマートレイアーを外へ追いやった。
ライバルに決して楽な道を行かせない。それはまるで、かつてのエリザベス女王杯でティコティコタックに乗った自身が、トゥザヴィクトリーに跨る兄にしてやられたことをやり返すようだった。
果たして道が空いたメイショウマンボはスムーズに脚を伸ばし、ライバルたちを置き去りにしていく。混戦となった2着争いを尻目に鮮やかにゴール坂を駆け抜ける、見事な牝馬二冠の達成だった。
そして2着には豊騎手が跨るスマートレイアーが入り、JRA史上初の兄弟ジョッキーによるG1ワンツーフィニッシュとなった。
不振だった兄弟がそろって復活し、弟がかつて兄にしてやられたことを今度は逆にしてみせる──。幸四郎騎手自身の成長と、武一族の勝負強さを再認識させられた秋華賞であった。



