カレンチャン ~日本競馬最高の短距離馬ロードカナロアにも勝利した“可憐な快速乙女”~
カレンチャン(Curren Chan)
スプリンターズS・高松宮記念を制し、短距離G1・2勝の偉業を成し遂げた快速の名牝。牝馬による短距離G1春秋制覇は快挙である。繁殖牝馬としても重賞級の子を産み、その血脈は今も競馬界に生き続ける。
プロフィール
性別 | 牝馬 | |
父 | クロフネ | |
母 | スプリングチケット | |
生年月日 | 2007年3月31日 | |
馬主 | 鈴木隆司 | |
調教師 | 安田隆行 | |
生産者 | 社台ファーム | |
通算成績 | 18戦9勝【9-3-1-5】 | |
獲得賞金 | 4億4906万1000円 | |
主な勝ち鞍 | 2011年 スプリンターズステークス 2012年 高松宮記念 |
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受賞歴 | 2011年 最優秀短距離馬 2012年 最優秀4歳以上牝馬 |
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産駒成績 | 産駒デビュー年:2018年 | |
通算重賞勝利数:0勝 | ||
通算G1勝利数:0勝 | ||
代表産駒 | カエンモエ(2021年オーシャンステークス 2着) |
可憐な快速乙女
スプリンター群雄割拠の時代、女王として一時代を築いたカレンチャン。
名前の由来は馬主の娘さんから、というのはなんとも可愛らしい。しかし他の関係者にとっては可愛らしいどころか、憎らしいと思うほどの強さを見せていた。
デビュー戦は2着に敗れるが、続く未勝利戦を勝利し、続く萌黄賞でも楽な手ごたえで勝つ。4戦目で初の重賞チャレンジとなるフィリーズレビューへ。1着とは0.4秒差ながら8着に敗れた。桜花賞の優先出走権を逃したことでスプリント路線に舵を切り、これが素質開花のきっかけとなる。6月に1000万下条件の1200m戦で圧勝したところで年内は休養に入った。
4歳になり、長い休養から帰ってきた彼女は別馬のような強さを発揮する一年となる。
初戦こそ3着だったものの、2戦目では1600万下のレースを快勝した。続いて、サンスポ杯阪神牝馬Sに出走。このレースは以前結果を残せなかった1400m戦であったが、1番人気に支持される。ここ数戦と同様、先行でレースを進めてゆく展開となった。1枠1番を活かし内ラチ沿いでじっと脚を溜めたカレンチャンは、直線でクロフネ産駒の特徴でもある勝負根性を見せ、1着でゴールを駆け抜けた。彼女の勢いはここからさらに加速する。
夏の函館スプリントステークスでは、プラス10キロということもあり状態面が不安視されたが、心配ご無用だった。外から上り最速の34.5秒の脚を使い、クビ差で勝利した。続くキーンランドカップも単勝1.9倍で出走し、先行からしぶとく粘り勝ち4連勝。そして、とうとう短距離最高峰の舞台であるスプリンターズステークスに駒を進める。
この舞台には海外から最強スプリンターが参戦した。その名はロケットマン。シンガポールで名を馳せ、世界でも大活躍をしていた馬だ。スプリンターズステークス参戦前まで21戦で全連対という安定感を誇り、日本の地でも単勝1.5倍という高評価を受けていた。
一方のカレンチャンは離れた3番人気になっており、ロケットマンが相手では伏兵扱いであった。GⅠとなるとスタートから好位を取ることが難しく、いつもよりやや後ろに構えたカレンチャンは、4コーナーを6番手であがってくる。直線伸びないロケットマンを尻目に、ドンドン加速して他馬を突き放し、最終的には1・3/4馬身差をつけて初戴冠した。
GⅠに手が届き、スプリント界の鬼門とされる香港スプリントへ。なぜ鬼門と呼ばれるかというと、香港ではオーストラリアの血統を多く取り入れているからだ。オーストラリア競馬では短距離戦が充実しているので、必然的に短距離血統が強くなる。日本競馬にとっては凱旋門と並ぶ悲願のタイトルであり、カレンチャンは日本現役最強スプリンターの称号を手に香港の地に乗り込んだ。しかし、世界の壁は厚く5着に敗れ、4歳シーズンを終えた。
年明け初戦には高松宮記念を見据え、オーシャンステークスを選ぶ。王者の宿命で牡馬と同じ56キロを背負ったため、いつものように伸びきれず4着止まり。そして上積みを感じつつ、本番の高松宮記念を迎える。
昨年と違ったのは、同厩舎の後輩で、ここまで圧倒的な強さを誇示し続けたロードカナロアが参戦してきたことだ。後輩に1番人気を譲った形となり、2番人気に甘んじるカレンチャン。しかし、強力なライバルの出現が彼女を一段と強くする。
レースでは抜群のスタートを決めたロードカナロアに対して、カレンチャンは少し促しながら一つ前の位置で競馬を進める。最後の直線、インコースで伸びないロードカナロアはキャリア最遅の上り35.4秒で3着になり、カレンチャンは見事に抜け出し1着で駆け抜けた。牝馬による短距離GⅠの春秋制覇は史上3頭目の快挙だった。
その後、短距離GⅠ三連覇を狙って出走したスプリンターズステークスでは、覚醒を迎えたロードカナロアに敗れ2着。引退レースで再び香港スプリントに出走するが、ロードカナロアが快挙を成し遂げるのを遥か後方で眺めた。
引退後は繁殖牝馬となり、かつて鎬を削った厩舎の後輩ロードカナロアとの産駒が話題を集めた。その名はカレンモエ。重賞タイトルには手が届かなかったが、重賞で3戦連続2着になるなど確かな力は示した。
可憐な芦毛馬だったカレンチャンは、今後も“枯れん”血を後世に残していくだろう。
(文●沼崎英斗)