【東京競馬場を支配した“府中の鬼” 5選】ヒーローの証明――数々のドラマを演出した長い直線の戦い
“府中の鬼”――東京競馬場を得意とする馬を指す際に使われる表現である。他の競馬場で走る時と比べ、東京競馬場では一段と力を増す馬が確かに存在する。そして、数々のビッグレースが行われる舞台だからこそ、その強さの価値は一層際立つ。本稿は“府中の鬼”と呼ぶに相応しい、東京競馬場で無類の強さを誇った5頭を紹介する。
①スペシャルウィーク
東京競馬場では生涯で4戦し、負けたのは3歳時のジャパンカップのみという成績を持つスペシャルウィーク。
東京競馬場での出走時、スペシャルウィークの背景にはいつも自身が奮い立つような場面があり、そして確実に結果を残した。そんな彼の姿は、まさに主人公と呼ぶにふさわしい。
府中の1勝目となった日本ダービーは1番人気でのG1初制覇となったが、これは同時に鞍上の武豊騎手にとってのダービー初制覇でもあった。
ゴールの瞬間、これまで幾度も惜敗に終わった悔しさを晴らすかのように武騎手は何度も馬上でガッツポーズ。勝利してから1週間、武騎手は興奮で熟睡できなかったという。
スペシャルウィーク自身もこの勝利でキングヘイロー、セイウンスカイと共に3強と呼ばれていた中で一歩抜け出し、クラシック路線では頂点に立つ存在となった。
だが2勝目の天皇賞(秋)では、絶頂を築いたダービーの時とは大きく状況が異なっていた。この年の天皇賞(春)は制したものの、宝塚記念ではグラスワンダーに3馬身差の完敗。
さらに秋初戦の京都大賞典は生涯最低の7着となったことで「スペシャルウィークは燃え尽きた」という噂が囁かれるようになっていた。当日、同馬の単勝人気は6.8倍の4番人気まで落ち込んでいたことからも、当時のファンの心境が読み取れる。
しかし、その評価に反発するかのように、スペシャルウィークは直線切れに切れた。メンバー中唯一の上り34秒を繰り出して前を行くライバルを捉えると、最後は内から共に伸びてきたステイゴールドを交わして、当時のレースレコードで勝利。
戦前の不安説を吹き飛ばすかのような見事な走りは、「スペシャルウィークは燃え尽きてなどいない」と示す絶好のパフォーマンスだった。
続くジャパンカップ、人気は日本馬では最上位となる2番人気まで回復した。凱旋門賞でエルコンドルパサーを破ったモンジューを筆頭とする世界の強豪が来日したが、全く怯むことなく立ち向かい、またしても上り最速の末脚を繰り出して東京のG1・3勝目。“日本総大将”としての意地を示した。