②2012年天皇賞・秋(エイシンフラッシュ)
2011年、ヴィクトワールピサが日本馬として初めてドバイワールドカップを勝利。その手綱を取ったのはデムーロ騎手で、半月前に東日本大震災が起こり、沈む日本を勇気づける人馬一体の走りを我々競馬ファンに見せてくれた。
翌年の秋、再び日本に短期免許で来日したデムーロ騎手は、来日して2週目の天皇賞(秋)で、2年前のダービー馬・エイシンフラッシュに跨った。
レース史上最速となる上り3F・32.7秒の末脚を繰り出してダービーを勝利したエイシンフラッシュ。それからは勝ち切れずとも惜しいレースは何度かあり、次のタイトル獲得は目前のようにも映っていた。
だが、この年の春にドバイ遠征を敢行して以降、掲示板内は一度もなく不振に。さらに前走の毎日王冠で、中団からいつもの切れ味を見せることなく9着となっていたことも手伝って、この天皇賞(秋)では評価を落として5番人気。
代わって上位人気に推されていたのは3歳馬のフェノーメノやカレンブラックヒル、古馬になってから頭角を現してきた同世代のルーラーシップやダークシャドウなどで、世代交代という印象も強くなり始めていた。
しかしいざレースに向かうと、エイシンフラッシュは精彩を欠いていたここ3戦とは違い中団のインでぴったりと折り合う。逃げたシルポートが1000m通過57.3秒という超ハイペースで飛ばしたのも、瞬発力に分があるエイシンフラッシュにはおあつらえ向きの展開だった。
そして直線、外にばらけた隊列を見て、デムーロ騎手は相棒を最内に誘導。瞬間、エイシンフラッシュは勝利したダービーに匹敵する上り3F・33.1秒の末脚を繰り出し、前を行く馬たちを並ぶ間もなく交わし去って突き抜ける。そのまま迫るフェノーメノを1/2馬身抑え、復活のゴールを果たした。
この天皇賞(秋)は、平成天皇と皇后陛下もご来場され、天覧競馬として実施されていた。入線後、陛下に対してデムーロ騎手は馬上から降り、両陛下に向け最敬礼。
そしてウイニングランの中ではファンに向けてしっかり飛行機ポーズを披露した。この勝利は、まさに「エンペラーフライト」と言えるだろう。