④エアメサイア
エアメサイアの叔父は二冠を達成したエアシャカールで、彼女を管理する伊藤雄二厩舎は、天皇賞・秋などを制したエアグルーヴを育てた名伯楽。そして、彼らをレースで勝利の栄光に導いたのは、ほかならぬ武騎手である。彼が自身と縁深い彼女に引退まで乗り続けたのは、ある意味では必然というべきなのかもしれない。
エアメサイアの同期にはラインクラフトやシーザリオを筆頭にかなりの強豪が揃っていた。しかもエアメサイアに桜花賞で先着したラインクラフトは牝馬として初めてNHKマイルCを勝ち、オークスで先着したシーザリオは日本調教馬では初の米国G1制覇となるアメリカンオークスを勝利。日本競馬界における史上初を、同世代のヒロインたちは作り上げていた。
そんな彼女たちに負けるわけにはいかないと奮起したか、秋のローズSではラインクラフトに初勝利。続く秋華賞では3番人気でも20倍以上のオッズとなる中でラインクラフトが1.8倍、エアメサイアが2.5倍と2頭で人気を分け合う。
レースは早めに抜け出したラインクラフトに、中団からエアメサイアが猛追。その差が徐々に詰まっていき、わずかにエアメサイアの頭が出たところがゴール。G1挑戦、3度目の正直が叶った瞬間だった。
「スタートからひとつでもミスしたら勝てないと思っていた」とインタビューで語った武騎手。極限のレースを制し、ライバル対決を終えたエアメサイアにはスタンドから万雷の拍手が贈られたが、馬上の天才が魅せた手綱捌きを、改めて称賛する声も少なくなかったはずだ。