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2000年日経賞を制したレオリュウホウ
2000年日経賞を制したレオリュウホウ(写真左端)

レオリュウホウ ~日経賞での激逃!単勝19390円~

 この年、印象的な逃げ切りといえば日経賞をあげないわけにはいかない。前年有馬記念でスペシャルウィークをハナ差退け、連覇を成し遂げたグラスワンダーの始動戦であり、単勝オッズは1.3倍。有馬記念を勝ったグラスが負けるわけがない。そんな空気一色だった。

 しかし、圧倒的な強さをみせた差し馬が中心にドンと座る前哨戦ほど、逃げ馬にとってチャンスはない。周囲の視線はすべて後ろの差し馬に注がれ、グラスワンダーが動かないとレース展開に変化が生じない。だからこそ、グラスワンダーが動けなかったとき、レースは思いもよらぬ方向へ乱れる。

 休み明けだったグラスワンダーは一切、動けなかった。馬体重+18キロ。激闘だった有馬記念の疲れをとるのに時間を要したか、明らかに状態は完調手前でもあった。先手を奪ったレオリュウホウはさしも飛ばしてはいないものの、1周目正面スタンド前では後続との差がみるみる広がっていく。ライバルたちがグラスワンダーを包囲したゆえの現象だった。

 後ろに見放される形になったレオリュウホウは13秒台を2度刻み、強めの調教レベルでゴールに向かって静かに走っていく。鞍上・菊沢隆徳騎手(現調教師)の手綱は緩みっぱなし。完全にリラックスしきったレオリュウホウは蓄えられるだけの力を溜めて勝負所へ。

 グラスワンダーの的場均騎手(現調教師)は激しく手綱を動かすも、イマイチ反応しない。先頭で最後の直線に入ったレオリュウホウはステイゴールドが差を詰めにかかると、急坂でそれを封じていく。前半で溜めた力が驚異的な粘りを生む。

 実況アナウンサーは、後方でもがくグラスワンダーの様子を焦りながら叫ぶ。ノーマークの逃げ馬ほど恐ろしいものはない。レオリュウホウの単勝は19390円。

 「負けられない、勝って当たり前」

 そんな枕詞ほど疑わないといけない。そして、そんな時にマークすべきは逃げ馬。レオリュウホウの逃げ切りにはそんな教訓がある。

 とはいえ、グラスワンダーの不振はその後の戦歴をみれば明らかだが、日経賞前にそれを察知するのは難しい。ある日、突然走らなくなる。サラブレッドにはそんな魔の瞬間がある。逃げ馬の激走には学ぶべき教訓が散りばめられている。レオリュウホウの日経賞はその象徴だった。

(文●勝木淳)

【了】

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