ビリーヴ ~記憶に新しいスプリンターズS“母仔初制覇”。勝鞍すべてが1200mの生粋のスプリンター~
ビリーヴ(Believe)
ビリーヴは4歳で突如本格化し、スプリントG1連覇や父産駒初のスプリントG1勝利など、多くの「初」を達成した。引退後は母として活躍し、スプリンターズS母仔制覇も実現することになる。芝1200mの適性を極めた生粋の快速少女であり、競馬史に燦然と輝くスプリンターだ。
プロフィール
性別 | 牝馬 | |
父 | サンデーサイレンス | |
母 | グレートクリスティーヌ | |
生年月日 | 1998年4月26日 | |
馬主 | 前田幸治 | |
調教師 | 松元茂樹 | |
生産者 | 上水牧場 | |
通算成績 | 28戦10勝【10-3-5-10】 | |
獲得賞金 | 4億6031万3000円 | |
主な勝ち鞍 |
2002年 スプリンターズステークス 2003年 高松宮記念 |
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受賞歴 | なし | |
産駒成績 | 産駒デビュー年:2007年 | |
通算重賞勝利数:3勝 | ||
通算G1勝利数:1勝 | ||
代表産駒 | ジャンダルム(2022年 スプリンターズステークス) |
自分でも金、ママでも金
日本競馬史にはこれまでに数多くの名スプリンターが存在した。1990年初頭に活躍したサクラバクシンオー、1996年に初めて春秋スプリント制覇を達成したフラワーパーク、そして龍王と呼ばれ日本のみならず香港でも大活躍したロードカナロア。そんな数多存在する名スプリンターの中には2000年代初頭、数々の初制覇を運んだ一頭の牝馬がいた。その名はビリーヴ。彼女は一気に頂点にまで上り詰めた、まさにシンデレラだった。
父サンデーサイレンス、母グレートクリスティーヌの間に生まれたビリーヴは 2000年11月、京都の1200m戦でデビュー。父サンデーサイレンス譲りの気性難はあったが、持ち前のスピードで単勝1.5倍の圧倒的人気に応え快勝。幸先良いスタートを飾った。だが、その後は勝利の女神から見放され、2勝目をあげたのは3歳になった2001年5月の通算7戦目だった。この勝利のあとも好走はするが勝ちきれないレースが続き、3歳を終えて10戦3勝と平凡な競走成績であった。
しかし翌年、4歳になると突如本格化し短距離路線の有力馬となった。夏に小倉のレースで連勝を飾り、勢いづいたところで、G2セントウルSに挑んだ。鞍上は当時園田競馬所属の岩田康誠騎手が担った。単勝2.0倍の1番人気に応え重賞初制覇を飾ると同時に、岩田騎手にJRA初重賞をプレゼントした。
3連勝の勢いそのままに挑んだスプリンターズS。従来開催されている中山競馬場の開催時期変更に伴い、新潟競馬場での開催となった。これが新潟競馬場では初のG1開催だった。ここまで3連勝の勢いを評価されたビリーヴは同年の高松宮記念を制したショウナンカンプ、安田記念を制したアドマイヤコジーンを抑えて、1番人気に支持された。武豊騎手を背に挑んだレースでは直線、進路が狭くなる不利を受けるが、上手く内ラチ沿いを進み、逃げ粘るショウナンカンプと、差してきたアドマイヤコジーンを半馬身差抑えてG1初制覇。4連勝で一気にスプリント界の頂点に上り詰めた。また、この勝利は同年に急死した父サンデーサイレンス産駒として初のスプリントG1勝利でもあった。
翌2003年はG1の高松宮記念に狙いを定め、2月の阪急杯からスタートした。秋のスプリント王者として人気も背負っていたが、まさかの9着に沈んだ。そして、不安を残したまま本番の高松宮記念を迎えることになった。このレースではこの年からJRAに移籍した安藤勝己騎手が騎乗した。3番人気になったビリーヴは最内枠から好スタートを決め、先団で競馬を進めた。
最終コーナーで2番手まで進出すると、直線半ばで早めに先頭に立ち、後続を振り切って1着でゴール。この勝利によりスプリントG1連覇を達成。連覇はフラワーパーク、トロットスター以来、史上3頭目の快挙となった。また騎乗した安藤騎手はJRAのG1初制覇を飾った。その後は京王杯スプリングC、安田記念に出走したが距離が長いのか連敗を喫し、得意の1200mに戻った函館スプリントSでは勝利を挙げた。
休養を挟んでのセントウルSは2着となり、迎えたスプリンターズS。連覇を狙うと同時に、このレース限りでの引退も発表されており注目を集めたビリーヴは1番人気に支持された。好スタートを切り、徐々に前方へ進出し直線で先頭に立ったが、大外から強襲したデュランダルとの写真判定の結果、2着に敗れた。連覇とはならなかったが同年のJRA賞では最優秀4歳以上牝馬のタイトルを受賞した。これを土産に引退、繁殖入りした。競走成績は28戦10勝、2着3回。1着、2着の全てが芝1200mという生粋のスプリンター適性だった。
引退後は繫殖牝馬としてアメリカに渡ったが、その産駒は日本で走り続けている。
初仔のファリダットは短距離の重賞戦線で活躍した。7番仔のジャンダルムは自身も勝ったスプリンターズSを勝利し、レース史上初となる母仔制覇を達成した。ビリーヴが成し遂げた数々の初制覇は、いつまでも色褪せることなく輝いている。
(文●目白明)