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加藤和宏調教師が語る「きっかけはスカウト」騎手を志す運命とは?名馬ハナズゴールとの出会いも明かす

text by 中西友馬

加藤和宏調教師インタビュー第二弾。今回は、騎手を志したきっかけや、調教師として忘れられない一頭「ハナズゴール」との物語、さらに所属する水沼騎手への想いも語っていただきました。前回の『騎手時代の印象的な5頭』に続き、今回も心に残るエピソードが満載です。今だからこそ明かされた、貴重なお話の数々をぜひご覧ください。

1980年有馬記念を制したホウヨウボーイ
1980年有馬記念を制したホウヨウボーイ

「きっかけはスカウト」~仲間と過ごした馬事公苑~

――ジョッキーを目指されたきっかけについて、お聞かせいただけますか?

ぼくは、馬産地の浦河にいたんですよ。それで中学校を卒業する直前まで、将来何をしようかっていう目標はなかったんですけど、牧場の人が「騎手という職業があるからやらないか?」っていうのを言いにきたんですよ。今でいうスカウトですよね。

――スカウトがきっかけだったんですね。

それで、なんでそのスカウトがうちに来たかっていうと、ぼくが体小さかったのもあるけど、当時器械体操をしていたということもありました。そんなに大きい地域じゃないけど、オール日高で2年、3年と団体で優勝してね。3年生のときは鉄棒が2位、個人総合で3位だったかな。そういうのもあって、運動神経も良いだろうと思われてのことだったんだと思います。

――生まれも浦河ですか?

そもそも、生まれは夕張なんですよ。うちの両親共働きで、炭鉱で働いていて。ぼくが小学校2年生の頃に「炭鉱もそろそろ先がない」ってなって、同じような炭鉱に親戚がいっぱいいたんだけど、みんな札幌とか苫小牧とかに各々就職していきました。それで、うちの親父は真面目だから会計なんか任されて、最後の最後までみんなの面倒を見ていて。それもあって、気付いたころには頃には札幌とか苫小牧にはもう就職先がなくて、最終的に浦河に行くことになったんですよ。

――それはまた、ジョッキーになるかどうかの大きな分岐点でしたね。

今考えると、この業界に入る運命だったのかなと思いますね。札幌とか苫小牧とかに行ってたら、こうはならなかっただろうから。それで、うちの二本柳先生が5年ごとに弟子を取ってたんだけど、ちょうどその時が弟子を取るタイミングだったんですよ。「誰かいないか?」ってことで、牧場の人経由でぼくに話がきて、二本柳先生のところにお世話になることになりました。それも縁ですよね。
だから、今思い返せばその時からダービーを勝つ運命だったのかもしれません(笑)。

――その後は、馬事公苑にいらっしゃったんですよね?

そうですね。昭和46年に、その当時は長期騎手講習生っていう形で馬事公苑に行って。あの頃は、長期騎手講習生と短期騎手講習生がいたんですよ。今だったら競馬学校一択ですけど、その当時は競馬学校を受からなかった子たちが、その短期騎手講習生っていう制度で厩舎で働いてたんですよ。

――今とだいぶ違う形だったんですね。

ぼくらみたいな長期騎手講習生は2〜3年で卒業ですけど、その人たちは1〜2ヶ月の講習を終えてまた戻って、そういう形で試験を受けてたんです。だから今の赤帽(見習い騎手)っていうかね、騎手候補生が昔はすごくいっぱいいたんですよ。もう野球で言うと2〜3チーム分ぐらい。それでぼくらも2〜3年後に試験を受けたんですけどね。

――当時はやっぱり規律が厳しかったですか?

その当時は、もちろん馬事公苑の外は出られなかったですね。周りからは「刑務所に入ってるみたい」とか言われましたけど、楽しかったですよ。自分はなにも夢とかなかったから、スカウトされてジョッキーを目指して良かった。「自分にとって天職だな、これしかないな!」って思ってました。だからもう、馬事公苑の厳しい生活でも楽しくてしょうがなかったです。

――馬に対する恐怖とかはなかったですか?

ぼくはなかったですね。馬が怖いと感じたら、騎乗することも楽しく感じないと思いますけど、乗ってるうちにだんだん上手になってきたし、そういうのも含めて全部楽しかった。同期も仲良かったしね。美浦でいえば、根本先生とか小西先生とかね。

――体幹の部分など、器械体操の経験が馬乗りにも生きていた感じはしましたか?

うーんどうだろうな? 正直よく分からないんですけど、やっぱり意味はあったでしょうね。体幹とかも関係あると思いもいますし。でもやっぱり一番生かされてると感じたのは、落馬したときの転がり方かな。

――いわゆる受け身みたいなことですか?

そういうことです。器械体操だと、技に入るときとか着地するときとか、地面スレスレを見なくちゃいけないじゃないですか。その経験があるから、落馬したときも落ちる寸前まで下を見ることができるんですよ。自然と身体が反応してるんで、それは器械体操の経験が生きてると思います。
だから、水沼にも「落ちたときは目をつぶらず、最後まで見ろ」って言ってるんですよ。そしたら身体がなんとかしてくれるからって。

――普通は怖くて目をつぶっちゃいそうなものですよね。

目をつぶっちゃうのはダメだね。落馬した時って、瞬間的に周りがスローモーションに見えるんですよ。たぶん身体が危機感を感じると、勝手にそうなるんですよね。芝が1本1本くっきり見えるぐらいスローモーションに感じるから、人間の身体って不思議ですよね。

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