⑤ホクトベガ ~「負けない競馬」で強豪に勝利~
――では最後、5頭目の馬を挙げていただけますか?
じゃあホクトベガにしますか。この馬はね、今でいう秋華賞だよね、当時のエリザベス女王杯を勝ちました。桜花賞、オークスと正攻法でいった結果勝てなかったんです。やっぱり同世代にベガとか強いのもいたから、勝ちにいく競馬をしたら勝てないなって。だからエリ女のときは、勝ちにいく競馬はやめて「負けない競馬をしよう」と思ったんですよね。
――「負けない競馬」をしたんですね。
あのレースは、3コーナーで強い馬たちが外を回って凌ぎあってたんですよ。ぼくはそれを見てたから、内でじっくり自分のペースで回ってたんですね。それでちょうど、ノースフライトが目の前を走ってて、それも手ごたえ良さそうだったから、これについていってなんとか我慢すれば、良い着順は拾えるなと。
それが「勝ちにいかない」ってことで、その程度の気持ちだったんですよ(笑)。
それで、4コーナーで強い馬たちが外のほうに見えたんで、その馬たちが上がっていって直線で勝ち負けするんだろうなって。だからこっちはジッとして、それに巻き込まれないように、負けない競馬をしようって思ってました。
――直線はどうなったんですか?
ノースフライトの後ろを気分良く走っていて、直線に入って追い出したら、これはノースフライトは抜けるな、勝てるなって思いました。でもノースフライトには勝てても、強い馬たちが外から抜け出しているものだと思って。
でもノースフライトを抜いて前に出てパッと外を見たら、誰もいないんですよ。そこからは興奮しちゃったね、それまで冷静に走ってたのに(笑)。
まだ手ごたえも良かったし、なんで外の馬たちがいないんだろうって。嘘じゃないかって疑いながら勝っちゃったよね。
――そんな心理状態だったんですね(笑)。今のお話を知ったうえで、もう一度レースを見返したくなりました。ちなみに、芝のレースを走っているときに、ダートも合いそうだなとは感じましたか?
ダートになってからは、もうずっとノリくん(横山典弘騎手)だったんですけど、あの馬は本当に力があったので、ぼくは芝でもダートでも両方いけるなって感じていました。性格はすごい素直でしたし、乗ってて本当になんの苦労もない馬でしたからね。
[プロフィール] ホクトベガ
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生年月日:1990年3月26日
性別:牝馬
調教師:中野隆良
馬主:金森森商事
生産者:酒井牧場
通算成績:42戦16勝 [16-5-4-17]
主な勝鞍:1993年 エリザベス女王杯
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【了】
(文●中西友馬)