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1983年天皇賞を制したアンバーシャダイ
第87回天皇賞を制したアンバーシャダイ

④アンバーシャダイ ~晩成型とはこの馬のこと~

――ここまで3頭のお話を伺いましたが、4頭目はどの馬でしょうか?

じゃあ、アンバーシャダイにしますか。この馬はホウヨウボーイの弟分みたいな感じで、能力はあったんですよ。だからオープンまではそんなに手もかからずに行ったんですけど、オープンになってから苦労しました。
直線に入ってもある程度は伸びるんだけど、直線半ばぐらいでへたっちゃう。だから能力的に限界なのかなぁって思っていたんだけど、この馬は奥手(晩成)だったんですよ。

――なるほど。よくいう晩成型ってことですね。

そう、へたるまでの距離がだんだん長くなっている気がして。最後は止まるんですけど、我慢できる距離が長くなってきて、古馬になってからは最後まで走り切れるようになったんですよ。

――アンバーシャダイが強くなっていく過程で、なにか具体的な変化は感じましたか?

そのときは、やっぱり体重も徐々に増えてきていました。体重が増えるごとに、直線でもだんだんバテない感覚がありましたね。苦しくなる場所が少しずつゴールに近づいてきて、最後はもうゴールまでしっかり伸びるようになったんですよ。だから、こんなはっきりした晩成型もいるんだなって思いましたね。もう限界かなって思ってからでしたから。

――体重が増えるっていうのは、数字が増えるだけじゃなくて、やはり見た目も変わりますか?

見た目も変わりましたね。オープンに上がったときは、まだ成長し切ってなかったんですよね。オープンに上がってしばらくして、こう年齢を重ねてから筋肉もついてきて。だから「馬のタイプって色々あるんだなぁ」って感心しましたよ。

――こういう古馬になって成長する馬は珍しいですか?

年齢を重ねてから、ここまで成長する馬っていうのは珍しいですね。大概もっと早くに成長して、早くから能力を発揮するんだけど、こんなに遅く成長するのは、その当時は珍しかったね。

――ホウヨウボーイの弟分みたいな感じというのは、性格なども似ていたのでしょうか?

いや、そんなことはなかったですね。ホウヨウボーイはヤンチャだったのに対して、この馬は本当に紳士みたいな感じで、タイプは違いましたね。

――そうなると、やっぱりアンバーシャダイのほうが乗りやすかったですか?

うんとね、アンバーシャダイの場合はちょっと癖があるというか。ホウヨウボーイは2回骨折してるから、復帰してからは慎重に、慎重に乗っていたんですよ。だから無理して馬群に突っ込んだりしないで、前半はおとなしくゆっくり行って、外から追い上げていく。なるべく脚に負担をかけないような競馬をしていたんですよね。

――その後はどうだったんですか?

脚を気にしなくなったら、もう馬群にも突っ込んでいけるし、何があっても平常心で走ってくれる馬だったので。だから、ホウヨウボーイの場合はどんな競馬をしても大丈夫だったんだけど、アンバーシャダイの場合は、そういうところが繊細でした。道中で馬を1頭抜かすのに結構な力を使っちゃう。だから器用なレースがなかなかできないタイプでした。最初に取れたポジションのまま道中はジッとして、最後伸ばすって感じだったね。

[プロフィール] アンバーシャダイ

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生年月日 1977年3月10日
性別:牡馬
調教師:二本柳俊夫
馬主:吉田善哉
生産者:社台ファーム
通算成績:34戦11勝 [11-6-7-10]
主な勝鞍:1981年 有馬記念、1983年 第87回天皇賞
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