③シリウスシンボリ ~逆境を乗り越えダービージョッキーに~
――では3頭目の馬を挙げていただけますか?
じゃあ、シリウスシンボリいきますか。
やっぱりダービーを勝たせてもらった馬ですからね。そのときのダービーは、レース自体がなんだかぼくに「勝ってください」っていうような展開で。
――どういうことですか?
なぜかというと、あの当時26頭いたと思うんですけど、シリウスシンボリはスタートが特に上手じゃない馬なんです。それでもあの馬なりには出たんですけど、行き脚ついたときには前の馬が壁になっているわけですよ。だからどうしようかなと思って。でも、前の馬が近づいてくると、不思議と進路が開くんですよ。そこに入っていくと、さらに壁があるじゃないですか。どうしようかと思っていると、また開いたんですよ。だから苦労しないで、ダービーポジションといわれる10番手辺りにつけられたんですよね。ポジション取ってからも楽でしたからね。
――思い通りにレースを進められたわけですね。
ただ、自分としては、もう少し直線の追い出しを遅くしたかったかな。それでも、内側から重馬場の上手いスダホークが来たのが見えて「あの馬を抜け出させたら、気分良くいっちゃうだろうな」と。これはまずいと思って、ちょっと早めだったけど、大丈夫だろうと追い出したんです。
後ろには岡部さんのスクラムダイナがいたのも分かっていました。だからどうしようかなとも考えたけど、腹をくくって「大丈夫、シリウスシンボリなら辛抱してくれる」って、追い出しました。
――やはりそこも、自分の馬を信じるというところに繋がるわけですね?
そうですね。やっぱりそれは大事なことです。さらにもう言っちゃうとね、あまり思い出したくない話だけど、あの時は和田オーナーとの間にも色々あったんで(笑)。
要するに、ぼく自身はもう勝つしかなかったんですよ。でも、勝つしかない状況のわりに、けっこう落ち着いて乗っていたなって我ながら思いますね。ぼく自身緊張するタイプなんですけど、競馬に関してだけは、ゲートに入ると緊張しなくなっちゃうんですよ。腹くくっちゃうタイプでしたね。
――シリウスシンボリは、どんな性格の馬でしたか?
本当にヤンチャな馬で、ゲート試験受かるまでに、半年ぐらいかかりましたからね。ゲートが開いた状態だと入るんですけど、閉まった状態だと全然入らなくて。開いた状態でも、半分くらい入ると急にビュンって飛んでいっちゃうんですよ。だからあの当時、膝はアザだらけですよ。
――そこまでヤンチャだったんですね。
それで、最後の函館だったかな? ゲートに半分まで入るんだけど、そこからどうしても入らなくて。そのときに祐ちゃん先生(野平祐二先生)が係員呼んで、ロープでやるみたいに手を繋いで後ろから押してね。そしたら入ったんですよ。
でもぼくとしては、入ったら入ったで何するか分からないから、暴れたらどうやって逃げようかばかり考えていたけど、入ったらもうジッとしていましたね。だから「本当に祐ちゃん先生はすごいな」って。普通なら、あんなヤンチャな馬を相手に後ろで手繋いでなんて考えられないですよ。
――ゲート試験より前の話になると思うんですけど、最初にこの馬に跨った印象はどんな感じでした?
いきなり2回ひっくり返されましたね(笑)。
最初のゲート練習のときに、嫌がって途中から進まなくなっちゃって。あまりに進まないから怒ったら、立ち上がりながら振り落とされちゃって。バランス崩して横に倒れたら、肩から落ちてすごく痛かった。これはやっちゃったなって思ったよ。でも、ただ痺れてただけで、しばらくしたら大丈夫だったけど、あまりに痛くて次から怒らなかったですよ(笑)。
――馬に跨ったときに、その馬の能力とかは分かるものなんですか?
そうですね。体幹が強いとか、背中に柔らかみがあるとか、その辺はなんとなく分かります。ただ本当に分かるのは、やっぱり競馬に行ってからです。
追い切りでも、15-15ペースまですごく格好いいなっていう馬もいるんですけど、14秒ペースとか13秒ペースって上げていくとだんだん変わってしまう。最後に追い出してからもペースが変わらないとか。
――ワンペースというか、いわゆるギアが上がらないみたいなことですか?
まさにそういうことです。逆に、遅いペースのときはフワフワとして大したことなくても、追い出してから「ガツン」とくる馬もいますね。そういう馬は、追い出すと重心が低くなって安定してくるんですよ。ギアが変わるのがちゃんと分かる馬は、いいなぁって思いますね。
あとは競馬に行くと、やっぱり性格とか根性とかも影響します。普段の追い切りでは走るのに、レースで集団になって走るとイヤになってしまう馬とかもいますね。そうかと思ったら、普段全然走らないのに、レースになると燃えて走る馬もいるし。
――馬に跨るからこそ分かることですね。
そういうギアチェンジができて、体幹もしっかりしていて背中が柔らかい。そういう馬が大体走る馬ですね。走る馬は速いペースになればなるほど安定します。逆に走らない馬は、速くなればなるほど安定しなくなります。分かりやすくいうと、ベンツに乗ってるのと軽自動車に乗ってるのぐらい違いますよ(笑)。
[プロフィール] シリウスシンボリ
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生年月日 1982年3月26日
性別:牡馬
調教師:二本柳俊夫
馬主:和田共弘
生産者:シンボリ牧場
通算成績:22戦4勝 [4-4-1-13]
主な勝鞍:1985年日本ダービー
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