矢作厩舎×坂井騎手のコンビは一変もあり得る

土台をつくったものといえば、やはり矢作芳人厩舎だ。データ集計期間中の調教師別成績をみても一目瞭然。圧倒的に矢作厩舎で勝利をあげた。矢作芳人調教師も坂井騎手も大井育ち。筆者は旧スタンド1階にあったもつ煮込みのネギの辛さを知るほど古くから大井に通っており、このコンビの活躍が誇らしい。
坂井騎手は私が大井の洗礼を受け、しこたま馬券で負けていた近くで父英光騎手(現調教師)の雄姿を目で追っていたかと思うと、親近感しかない。大井の外回りは仕掛けるタイミングが馬場状態で大きく変わる難しいコースであり、これを見て育った坂井騎手が腕達者なのは当然ともいえる。
話が逸れたが、二人のつながりは確かに大井がとりもったものだが、その後の深まりは矢作調教師の責任感と愛情の深さ、坂井騎手の競馬への姿勢がもたらした。師弟関係なんて言葉はもはや死語かもしれないが、二人の関係は例外。教え、支援する人、教えを乞い、期待に応えようと研鑽する人の理想形がこの関係だ。

矢作厩舎×坂井騎手のコンビは当然ながら前走2着の勝利目前の成績がもっともいいが、注目すべきは6~9着が5着以内の掲示板とそん色ない点だ。4着以内の単複回収値は100を下回るものの、5着117、116、6~9着159、113と100を超える。さすがに10着以下大敗からの巻き返しはしんどいが、9着以内なら十分買えるので、穴党もこのコンビから目を離せない。
元来、矢作厩舎は想定が読めない厩舎として有名で、相手関係や適性条件などを柔軟に考え、勝てる見込みがあるレースを選んでくる。思い切った条件替わりなども多く、とにかく先入観にとらわれない。それでいて自分の目、スタッフの感触を信じることで現状を打開してくる。矢作流を信じ、その出走意図を読み解けば、大穴ゲットの機会もある。
たとえば2021年7月4日函館7R1勝クラス(ダ2400)を勝ったスーパーフェイバー(7番人気、のちに西園翔太厩舎へ転厩)は前走東京ダ1600mに出走し、7着。坂井騎手が継続騎乗し、800mの距離延長で一変した。この大胆な条件替わりは調教師と騎手の間でのすり合わせの成果だろう。
その2走前に姫路1400mで初勝利をあげた馬であり、この距離延長を根拠に予想するのは難しいが、矢作流を信じてさえいれば獲れたわけだ。ちなみに勝ったレースは2番手からの粘り込みで、坂井騎手得意パターンでもあった。おそらく楽に前をとるには2400mぐらいがいいというジャッジだったと推測する。
もう一頭、22年4月9日中山4R未勝利6番人気1着メタルゴッドをとりあげる。前走は阪神の牝馬限定戦ダ1200で古川奈穂騎手が騎乗し、7着。後方で流れに乗れなかったが、最後に脚は使えた。で、次戦は中山ダ1800、坂井騎手にスイッチし、4コーナー3番手から抜け出した。短距離から中距離へと大きく条件を替え、さらに中山に連れていき、牡馬相手に勝ち星を奪った。
実はこのコンビの前走6~9着は中山東京の関東遠征で5-2-3-7と好成績を収める。そこそこ負けた馬を地元ではなく、あえて遠征させるあたりがなんとも大胆であり、これが高い確率で成功し、賞金をくわえて地元に戻ってくる。メタルゴッドが勝ったレースは1番人気こそ牡馬のララエフォールだったが、2、3番人気は牝馬で、4番人気とはオッズの開きがあった。ようはレベルが高くない未勝利戦だったわけだ。この辺の相手関係も矢作厩舎は巧みに読んでくる。