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エスポワールシチー ~8歳秋までに通算40戦17勝。幾千世牧場が生んだGⅠ級9勝の無事是名馬~

text by 目白明

エスポワールシチー(Espoir City)

無事是名馬——その言葉を体現し、ダート界を席巻したのがエスポワールシチーだ。幾千世牧場が生んだ傑物は、無類のタフネスを備え、大きなケガなく40戦を走りぬいた。芝での苦戦を経てダートへ転向すると、一気に頭角を現し、圧倒的な存在感を示した。通算G1/Jpn1を9勝し、日本を代表するダート王となった名馬の軌跡を振り返る。

EspoirCity
エスポワールシチー

プロフィール

性別 牡馬
ゴールドアリュール
エミネントシチー
生年月日 2005年4月22日
馬主 友駿ホースクラブ
調教師 安達昭夫
生産者 幾千世牧場
通算成績 40戦17勝【17-10-3-10】
獲得賞金 10億2319万7000円
主な勝ち鞍 2009, 2010, 2012年 かしわ記念
2009,2012,2013年 マイルチャンピオンシップ南部杯
2009年 ジャパンカップダート
2010年 フェブラリーS
2013年 JBCスプリント
受賞歴 2009,2010年 JRA賞最優秀ダートホース
産駒成績 産駒デビュー年:2017年
通算重賞勝利数(中央):2勝
通算G1勝利数(中央):0勝
代表産駒 ペイシャエス(2022年ユニコーンS、2024年 エルムS)
イグナイター(2023年 JBCスプリント競走)

~ダート界で一時代を築いた無事是名馬~

 ”無事是名馬”という格言を聞いたことがあるだろうか。今回のレジェンドホースはその言葉を体現し、ダート界で一時代を築いた、エスポワールシチーを取り上げる。

 父はダートG1を幾度も勝利したゴールドアリュール。母のエミネントシチーは現役時代、芝、ダートで勝利をあげていた。そんな父と母から2005年に生まれた”希望”という意味の名の持つ、エスポワールシチーの希望に満ちた、競走馬生活がスタートした。

 2008年3月、3歳になり阪神の芝でデビューしたエスポワールシチーは、1番人気を背負いながらも、3着に終わる。その後、芝の未勝利戦を4戦使われるが、2着が最高成績だった。6戦目でようやく勝ち上がるが、次の条件戦で7着に敗れたのを最後に、芝に別れを告げ、活躍の場を求めてダート路線を歩ゆむことになる。

 ダートの初戦となった条件戦を7馬身差で圧勝すると、次ぐ条件戦も危なげなく勝利した。ダート転向後4戦目のオープン戦では、圧倒的な1番人気となった。レースでは、最初のコーナーで先頭に立つと、そのまま逃げ切り勝ちを果たした。翌年へ向けて大きな希望を抱かせる内容で、3歳シーズンを終えた。

 2009年、4歳になるといよいよ本格化するエスポワールシチーは、年明け初戦に初重賞挑戦となる平安ステークスで1番人気を背負った。結果は惜しくも2着だったが、次の大舞台に向けて好調をアピールした。そして、初G1となったフェブラリーステークスでは、カネヒキリ、ヴァーミリアンなど歴戦のダートの猛者たちを相手に、4着に入る大健闘で、一線級でも戦える実力を見せた。

 5週後には、初重賞制覇を狙いマーチステークスに出走した。好位からレースを運ぶと、1番人気に応え、重賞初勝利を飾った。続いて出走したのは船橋競馬場で行われる、かしわ記念(Jpn1)。エスポワールシチーは2番人気を背負い、中団待機からレースを進めた。最終コーナーで3番手に進出すると、直線では手応えよく先頭に立ち、最期は追い詰めてきた1番人気のカネヒキリを抑えて、Jpn1初制覇を飾った。

 その後は休養に入り、秋初戦は盛岡のマイルチャンピオンシップ南部杯(Jpn1)から始動した。スタートして先頭に立つと、最後まで先頭を譲らず、4馬身差をつけてJpn1連勝を飾った。この勝ちっぷりから次走はダートの猛者が集まる、ジャパンカップダートに出走する。前走からの勢いそのままにスタート後、先頭に立つと、そのまま折り合って逃げた。直線に入っても勢いは衰えるどころか、最後は他馬を突き放しての完勝した。この年はG1(Jpn1)を3勝の活躍を評価され、JRA賞最優秀ダートホースに選出された。

 年が明けた2010年。充実期を迎えたエスポワールシチーは、初戦でフェブラリーステークスに出走した。単勝1.7倍の圧倒的1番人気に支持されると、2番手追走から、直線で先頭に立ち、2着に2馬身半差をつけての勝利。これでG1、4連勝となった。続いては連覇をかけた、かしわ記念に出走。ここでも快勝し、連覇達成と共にG1(Jpn1) 5連勝を記録した。

 この勝利後、ダートの最高峰レース、ブリーダーズカップ・クラシックへの挑戦が決定した。
夏の休養を経て、ステップレースとして出走した、マイルチャンピオンシップ南部杯では単勝1.0倍の圧倒的1番人気に推された。だが、まだ調整段階のためか、過去最高馬体重が影響してか、3馬身差の2着に敗れた。連勝も6でストップしてしまう。

 やや不安が残るなか、迎えたダート競馬の祭典、ブリーダーズカップ・クラシック(アメリカ)に出走する。
毎年、全世界が注目する祭典において、この年はデビューから20連勝及び、Tiznow以来、史上2頭目の連覇がかかったZenyattaに注目が集まった。

 前団の3、4番手を進むエスポワールシチーは直線入り口で、一度先頭に立つなど見せ場は作るが、最後は力尽き10着に終わった。
注目のZenyattaは直線、後方から猛烈な追い込みを見せたが、アタマ差届かず2着に敗れ連覇はならず、デビューからの連勝は19でストップした。

 帰国したエスポワールシチーは、その後のレースを回避したが、2年連続でJRA賞最優秀ダートホースを受賞した。

 翌2011年、3月の名古屋大賞典を制し帰国後の初勝利を飾ったが、その後はなかなか勝ち切れず、この年は6戦2勝で終える。

 7歳になった2012年。年明けの平安ステークスでは2着、フェブラリーステークスで5着と、不安を残したまま迎えたかしわ記念。2009年、2010年と連覇した相性の良い舞台で復活を期す、エスポワールシチーは、2番手追走から最終コーナーで先頭に立つ正攻法の走りで、2着に2馬身半差をつけての優勝を果たした。かしわ記念は3度目の制覇となった。

 ブリーダーズカップ以降、調子を落としていたが、この勝利で再び上昇気流に乗り始めたエスポワールシチーは、続く帝王賞、エルムステークスと連続2着に入ると、秋のマイルチャンピオンシップ南部杯では、1番人気に応え、2009年以来の同レース勝利を飾り、G1級、7勝目をあげた。

 8歳となった2013年は、フェブラリーステークスから始動した。9番人気と低評価ながら2着に健闘した。鼻出血を発症しながらも、ど根性で踏ん張り存在感を見せつけた。

 4度目の制覇がかかった、かしわ記念では逃げの手を打ったが、次世代ダート王候補のホッコータルマエにかわされて、2着に終わった。間隔を空けて臨んだマイルチャンピオンシップ南部杯では、逃げ切りで勝利を収め、史上4頭目の連覇を成し遂げた。次のJBCスプリントでは、道中3番手から最終コーナーで先頭に立つとそのまま押し切り勝利。G1級(Jpn1)9勝目を挙げた。続くジャパンカップダートは7着に敗れ、これを最後に現役を引退した。

 通算成績は40戦17勝。大きな怪我もなく、息長く活躍したエスポワールシチーは、まさしく無事是名馬といえる競走生活であった。引退後、種牡馬として自身と同じ様に、ダートで活躍した産駒を多数輩出している。ヴァケーション、イグナイターはJpn1馬となり、ペイシャエスは重賞勝ちを果たし、父の背中を追いかけている。

【了】

(文●目白明

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