リスグラシュー ~晩年に咲き誇った優美な百合。GⅠ3連勝で締めくくった名牝中の名牝~
リスグラシュー(Lys Gracieux)
リスグラシューは、牝馬として春秋グランプリを制した名牝である。引退レースとなった2019年の有馬記念では、ノーステッキで2着に5馬身差をつけて優勝し、競馬ファンの心に「現役最強牝馬」としてその名を刻んだ。引退前の3戦でコンビを組んだダミアン・レーン騎手とともにさらなる高みへと到達し、ターフを去るその日まで、競馬ファンを魅了し続けた彼女のキャリアを振り返る。
プロフィール
性別 | 牝馬 | |
父 | ハーツクライ | |
母 | リリサイド | |
生年月日 | 2014年1月18日 | |
馬主 | キャロットファーム | |
調教師 | 矢作芳人 | |
生産者 | ノーザンファーム | |
通算成績 | 22戦7勝【7-8-4-3】 | |
獲得賞金 | 8億8738万1000円 | |
主な勝ち鞍 | 2018年 エリザベス女王杯 2019年 宝塚記念 2019年 コックスプレート 2019年 有馬記念 |
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受賞歴 | 2018年 最優秀4歳以上牝馬 2019年 年度代表馬、最優秀4歳以上牝馬 |
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産駒成績 | 産駒デビュー年:2021年 | |
通算重賞勝利数:0勝 | ||
通算G1勝利数:0勝 | ||
代表産駒(主な勝ち鞍) | なし |
牝馬として初めて春秋グランプリ連覇
牝馬史上初の春秋グランプリ制覇を達成し、全盛期にターフを去ったリスグラシュー。ハーツクライ産駒らしい成長曲線を描き、引退レースとなった有馬記念では「現役最強は私だ」と言わんばかりの圧巻の走りを見せつけた。
デビュー戦は2着に敗れたものの、2戦目では阪神競馬場で出走し、当時の2歳コースレコードを記録する勝ちっぷりを見せた。重賞初挑戦となったアルテミスステークスでも勝利し、2歳女王決定戦の阪神ジュベナイルフィリーズに駒を進める。しかし、大外枠のうえにスタートで出遅れしまい、後方からの競馬となってしまう。一方、スタートを決めて前目につけた1番人気のソウルスターリングは、内々をロスなく回ることができた。その結果が1馬身1/4の差に繋がり、ソウルスターリングの2着に敗れた。
3歳初戦となるチューリップ賞では3着となり、クラシック初戦の桜花賞へ向かう。ここではソウルスターリングに先着するものの、先に抜け出したレーヌミノルを捉えられず2着におわる。続くオークスではソウルスターリングの5着に終わり、善戦ともならなかった。休み明けは秋華賞トライアルのローズステークスで3着になり、最後の一冠である秋華賞獲りへ向かった。
今まで先に抜け出した馬を捉えきれずに敗れるという展開が多かったが、このレースでは早めにまくることに成功する。しかし、リスグラシューのさらに後ろから伸びてきたディアドラに差され、2着におわった。続くエリザベス女王杯では、上がり最速の脚で追い込むものの、スローな展開が響き8着となる。能力の高さは確かだが、なかなか勝ちきれないという歯痒い結果の一年を終えた。
年が明け4歳になったリスグラシューは、オークスやエリザベス女王杯といった中距離で結果を出せなかった点を考慮し、マイル戦の東京新聞杯に出走し、久しぶりの勝利をあげる。その結果を踏まえ、春はマイル路線のGⅠにかじを切った。しかし、ヴィクトリアマイル3着、安田記念8着に敗退した。このままG1を勝ちきれないまま競走生活を終えるのかと誰もが思っていた。
しかし、秋のエリザベス女王杯で遂に戴冠する。マジックマンの異名で知られるモレイラ騎手を背に、中段から唯一33秒台の上がりを繰り出し、1着となったのだ。ハーツクライ産駒らしい成長力に加え、飼い葉食いが良くなったことも大きい。デビュー時は430キロ台だった体重も、この頃には460キロにまで達していた。エリザベス女王杯後も初海外の香港ヴァーズ(GⅠ)で2着になるなど、確実に力をつけた印象で4歳をおえた。
5歳になり再び勝ちきれないレースが続いていたが、更なる能力開花は宝塚記念で突如として訪れた。今までは後方からレースを進めていたが、名手ダミアン・レーン騎手が2番手の位置で競馬をする選択を取る。普段と違う先行の脚質に騒然となる場内であったが、最後の直線では逃げ馬のキセキを一気に抜き去り、上がり最速の脚をつかい圧勝した。
次走には、宝塚記念の勝利により優先出走権を得たオーストラリアのコックスプレートへの出走を決める。レースでは日本のみならず海外でも1番人気に指示され、それに応える堂々とした勝ちっぷりを見せつけた。最後の直線が短いムーニーバレー競馬場で大外を回し、2着馬に1馬身1/2をつける横綱相撲だった。2着馬の斤量が49.5キロだったのに比べ、リスグラシューの斤量が57キロであったことを考えると、いかに彼女が優れていたのかが分かる。
そして帰国後、年内での引退が発表されたリスグラシューは、最後のレースとなる有馬記念へ。ここで最強の相手が立ちはだかる。のちに日本競馬史上最もGⅠを勝つことになる同じ牝馬のアーモンドアイだ。当日のオッズはアーモンドアイが単勝1.6倍で、リスグラシューが単勝6.7倍と、覚醒したリスグラシューでさえもアーモンドアイには勝てないという見方が表れていた。
しかし、レースはアーモンドアイが最後の直線で伸びあぐねるのに対して、リスグラシューはノーステッキで2着馬に5馬身差をつけて勝利する。これで引退するのは非常に惜しいと感じさせるほどの圧巻のパフォーマンスだった。
牝馬として初めて春秋グランプリ連覇を成し遂げ咲き誇った百合は、満開のうちにターフに別れを告げた。
(文●沼崎英斗)
【了】