シュヴァルグラン ~遅咲きだった“大魔神の所有馬”が偉大な馬へとなるまでの物語
シュヴァルグラン(Cheval Grand)
シュヴァルグランは、「偉大な馬」という意味を持つ名馬だ。馬主は横浜ベイスターズなどで活躍した“大魔神”佐々木主浩氏。4歳で阪神大賞典を制し、5歳で迎えたジャパンカップでは宿敵キタサンブラックを破り、GⅠ初勝利を達成。GⅠで8度の3着以内を果たし、総賞金10億円以上を稼いだ「馬主孝行」のシュヴァルグラン。その軌跡を振り返る。
プロフィール
性別 | 牡馬 | |
父 | ハーツクライ | |
母 | ハルーワスウィート | |
生年月日 | 2012年3月14日 | |
馬主 | 佐々木主浩 | |
調教師 | 友道康夫 | |
生産者 | ノーザンファーム | |
通算成績 | 33戦7勝【7-7-7-12】 | |
獲得賞金 | 10億69万7000円 | |
主な勝ち鞍 | 2017年 ジャパンカップ | |
受賞歴 | なし | |
産駒成績 | 産駒デビュー年:2023年 | |
通算重賞勝利数:0勝 | ||
通算G1勝利数:0勝 | ||
代表産駒(主な勝ち鞍) | メリオーレム(プリンシパルステークス2着) |
偉大な馬への物語
良血馬ハルーワスウィートの4番仔で、例により元プロ野球選手の佐々木主浩が馬主になった仔馬は、フランス語で「偉大な馬」を意味するシュヴァルグランと名付けられる。
デビュー戦では、2番手集団から上がり最速の34.7秒の脚で迫るが、クビ差で2着という惜敗となった。3週間後の未勝利戦では無事に初勝利を飾り、重賞挑戦となるラジオNIKKEI杯京都2歳ステークスへ向かった。5番人気であったが、結果は3着に入る健闘を見せ、続くエリカ賞も3着になり2歳を終える。
3歳になり日本ダービー出走を目指し毎日杯や京都新聞杯へ挑戦するもいずれも好結果を残せなかったため、クラシック路線を断念し休養に入った。夏の復帰戦で2着になったところで陣営はある決断をする。また、この決断がシュヴァルグランの潜在能力を引き出すことに繋がった。出走するレースの距離を延ばすことにしたのだ。
初めての2400m戦となった10月のレースで1着を取った後、同じ距離で破竹の3連勝を果たした。クラシックには間に合わなかったが、秋の上がり馬として注目されることとなった。
4歳になり日経新春杯に挑戦する。格上挑戦であったが、今までのレースぶりが評価され1番人気となった。結果、1着馬には離されたが、2着に入り重賞でも通用することを印象づけた。その後、さらなる距離延長となる3000mの阪神大賞典に出走する。レースでは残り200mあたりで早くも先頭に立ち、直線では流しながらゴールする強さを見せ、重賞初制覇を飾る。
続いて、初GⅠ挑戦となる天皇賞(春)へ。ここでは同世代のライバル、キタサンブラックと初顔合わせになったが、1.1/4馬身差をつけられ3着に敗れる。秋になり、アルゼンチン共和国杯は制するものの、ジャパンカップでは3着にとどまった。キタサンブラックやサトノダイヤモンドといったライバルが全盛期であり、何度も跳ね返された1年となった。だが、成長力に定評のあるハーツクライ産駒のシュヴァルグランは翌年に本格化を迎える。
5歳の初戦、阪神大賞典は連覇をかけた戦いとなったが、昨年の有馬記念で敗れた単勝1.1倍のサトノダイヤモンドに貫禄を見せつけられ再び敗れた。続く、天皇賞(春)ではサトノダイヤモンドを下したものの、キタサンブラックには届かず2着となる。
その後のレースは逃げの一手を打ってみたりと試行錯誤するなか、ジャパンカップを迎えた。レースでは、キタサンブラックが逃げて緩まない展開をつくり、シュヴァルグランはラチ沿いで粛々と脚をためた。最後の直線で外に出しスパートをかけ、粘るキタサンブラックを残り100mでかわし、レイデオロの追撃も退け、GⅠレースのゴール板を最初に通過。遂に名前負けすることのない名誉を手にした。
シュヴァルグランは7歳まで現役を続け、海外にも挑戦したが、GⅠでは2着が2回、3着が1回と再び王座に手が届くことはなかった。しかし、重賞で掲示板に16回入るなど安定感がある走りで、獲得賞金10億円以上を稼ぎ、実に馬主孝行な馬だといえる。また、GⅠで3着以内となった8回はいずれも2400m以上のレースだった。
引退後はブリーダーズ・スタリオン・ステーションで種牡馬となる。初年度成績は振るわなかったが、”偉大な馬”シュヴァルグランの後継者探しはまだ始まったばかりだ。
(文●沼崎英斗)
【了】