【テン乗りG1制覇5選】代打の神様が舞い降りた!“これしかない”一手で掴んだ劇的戴冠

人馬の呼吸が重要とされる競馬において、乗り替わりは必ずしもプラスとは限らない。とりわけ、これまで一度も騎乗経験のない騎手が初めて手綱を取る、いわゆる「テン乗り」の場合、マイナス要因となることも多い。
だが、その条件でG1制覇を成し遂げた騎手と馬も存在する。今回は、テン乗りでG1を制したコンビを5つ紹介する。[1/5ページ]
①南井克己&サイレンススズカ
■1998年宝塚記念
武豊騎手とのコンビが印象強いサイレンススズカだが、その生涯で唯一のG1勝利となった宝塚記念を制した際の鞍上は南井克己騎手だった。武騎手は先約にお手馬エアグルーヴがいたため、この一戦に限って乗り替わりとなった。
古馬となってからのサイレンススズカはスタートから後続を突き放し、ハイペースのまま押し切る大逃げのスタイルで4連勝、うち重賞3連勝をこの宝塚記念までに挙げていた。しかし、テン乗りとなった南井騎手は、これまでのイメージとはやや異なるレース運びを展開した。
ゲートから飛ばし、後続を大きく引き離すところまではいつもと一緒。1000m通過も58秒6とかなり速い流れで進めて行った。
だが、南井騎手は勝負所で相棒の手綱を引き、一気に後続を引き付けて息を入れる選択を取った。事実、1000m通過時点までは11秒後半から12秒台前半を刻んでいたラップは、4コーナー手前では12秒8まで下がっていたように、サイレンススズカは明らかにペースを緩めていた。
その動きに後続は一気に進出を開始し、4コーナーでサイレンススズカと2番手集団の差は1馬身ほどまで詰まる。これまでの連勝劇では見せたことのないその差の詰まり方に、サイレンススズカがバテたと見たファンも少なくなかっただろう。
形は違えどサイレンススズカは武騎手とのコンビでいつも息を入れており、だからこそ後続は全く彼の走りについていけなくなっていた。
そして、この時も例外ではなく、後続を引き付けたことで脚がしっかり溜まったサイレンススズカは直線に向くと再加速。ステイゴールドやエアグルーヴらの追い込み勢を寄せ付けず、G1初勝利のゴールに飛び込んだ。
勝ちタイム2分11秒9は、前年のマーベラスサンデーと同じ。それでいて、逃げたサイレンススズカの方がマーベラスサンデーより速い上がりで勝ち切っているのだから、やはりその実力は本物だった。
そしてその実力を初騎乗で引き出した南井騎手の騎乗も天晴。「逃げて差す」という、この一戦における最適解を編み出したといっていいだろう。
そしてサイレンススズカはこの秋、そのスピードで我々がまだ見ぬ場所へと駆け抜けて行った。


