キズナ 〜東日本大震災の復興を願い名付けられた名馬〜
キズナ(Kizuna)
2010年3月5日に父・ディープインパクト、母・キャットクイルの間に産まれたキズナ。ディープインパクトは言わずもが、キャットクイルはファレノプシス(牝馬二冠)やサンデーブレイク(米重賞馬)を輩出してきた名牝である。そして、キズナも武豊騎手に5度目の日本ダービーをもたらすなど、幾多のドラマを生んだ名馬となった。
プロフィール
性別 | 牡馬 | |
父 | ディープインパクト | |
母 | キャットクイル | |
生年月日 | 2010年3月5日 | |
馬主 | 前田晋二 | |
調教師 | 佐々木晶三 | |
生産者 | ノースヒルズ | |
通算成績 | 14戦7勝【7-1-2-4】 | |
獲得賞金 | 4億7639万9000円 | |
主な勝ち鞍 | 2013年 日本ダービー | |
受賞歴 | 2013年 最優秀3歳牡馬 | |
産駒成績 | 産駒デビュー:2019年 | |
通算重賞勝利数(中央):5勝 | ||
通算G1勝利数(中央):1勝 | ||
代表産駒 |
ソングライン(2022年、2023年 安田記念) ジャスティンミラノ(2024年 皐月賞) |
~キズナ・その馬生は人との絆~
血統の裏付けもあり、夜間放牧ですくすく育った仔馬は、ノースヒルズの育成場である大山ヒルズに移る。評価は上々であり、施設マネージャーや獣医師、騎乗スタッフなど全ての関係者から最高評価を得た。そして、“ノースヒルズの史上最高傑作”との期待を受け、キズナと名付けられる。
デビューは2012年10月。鞍上にはノースヒルズや佐々木調教師の主戦騎手として重宝された佐藤哲三が起用された。佐藤は育成牧場時代からキズナの調教を施す力の入れようであった。その期待を背に、キズナは新馬戦を2馬身差で快勝する。続く黄菊賞も2馬身半差をつけ2勝目。そして次にラジオNIKKEI杯2歳ステークスを選択して、クラシックへという目論見であったが、問題が発生する。
主戦騎手の佐藤が他のレースで負傷して、キズナに乗れなくなってしまう。その負傷が原因で引退してしまった佐藤の代わりに、前田が主戦に起用したのはキズナの姉・ファレノプシスの背中を知る武豊であった。
武豊といえば日本競馬の第一人者であるが、2010年に落馬負傷してから自身の年間最低勝利数を記録するなど、低迷していた。しかし、前田は「日本競馬を牽引してきた武豊がこれではいけない」とキズナの鞍上に選ぶ。これもキズナが生み出した”絆”であろう。しかし、レースは極端なスローペースの中で折り合いを欠き、エピファネイアの3着と賞金を加算することができなかった。
明け3歳の初戦は皐月賞トライアルの弥生賞へ。3着に入って優先出走権を取りに行ったが、スローペースと後方待機のために差し届かず、まさかの5着に敗れる。陣営は次走に毎日杯を選択する。皐月賞を諦め、日本ダービーへ狙いを絞ったのだ。毎日杯では、単勝1.5倍の1番人気にこたえ快勝して、続く京都新聞杯も勝利し、いざ日本ダービーを迎える。
日本ダービーでは皐月賞を制したロゴタイプや、今までキズナが一度も先着したことがないエピファネイアなどを抑え、キズナが1番人気であった。1枠1番の最内枠であったが、レースはいつも通り後方待機を選択し、最終コーナーを14番手で通過する。最後の直線を豪脚でごぼう抜きし、粘るエピファネイアをも飲み込み完勝。栄えある第80代日本ダービー馬となった。
ダービー後は凱旋門賞(GⅠ)を目指すことになったキズナ。前哨戦のニエル賞(GⅡ)では、イギリスのダービー馬も参戦するなど例年より高レベルであったが、見事に勝ち切り、いざ凱旋門賞へ。キズナは現地でも3番人気であったが、直線でいつものように伸びきれず4着に終わる。
帰国後、初戦の産経大阪杯を快勝し、初めての長距離戦となる天皇賞(春)へ向かった。1番人気で出走するが、惜しくも4着に終わる。不可解な負けかたの原因は後日判明する。検査した結果、左前脚第3手根骨骨折で、全治9か月の重症だったのだ。執刀医からは競走能力喪失と判断されるほどだったが、陣営は現役続行を決める。
現役復帰後は前年骨折した天皇賞(春)などに出走するも、かつての豪脚は鳴りを潜めて勝ち切ることができなかった。これは決してキズナの能力が落ちた訳ではなく、キズナ自身がトップスピードに入るのを嫌がるようになったためだと語られている。その後、放牧をはさみ、秋古馬GⅠに向けて栗東トレセンに帰厩した数日後に、右前繋部浅屈腱炎が判明し引退となった。
2016年に種牡馬入りしたキズナは父ディープインパクトの後継者として、社台スタリオンステーションに2024年現在も在籍している。現役時代は人と人を繋いできたキズナ。今度はキズナ自身がサイアーラインを繋いでいく番だ。
【了】
(文●沼崎英斗)
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