「ダービーだけは別格」歓喜の涙…至福の笑顔…【日本ダービー初制覇・騎手5選】
現代では数多くのG1レースが行われているが、それでも「ダービーだけは別格」と語る騎手は少なくない。だからこそ、彼らが初めてその大舞台を制した瞬間は、私たちの記憶にも深く刻まれるのだろう。今回は、“ダービー初制覇”を成し遂げた騎手たちの中から、特に印象深い5名を選び、それぞれの物語をたどっていく。
①武豊(10度目の騎乗)
1990年代、既に日本だけでなく世界を股にかけるトップジョッキーとして活躍していた武豊騎手。もちろん国内G1は多数制していたが、八大競走の中で唯一ダービーには手が届いていなかった。1996年ダンスインザダークと共に勝利をほぼ手中にしたダービーでも、最後の最後にフサイチコンコルドに交わされ2着。この頃から「武豊はダービーを勝てないのか……」という言葉がささやかれるようにもなっていた。
その2年後の秋「2週間後にデビューを控えているサンデーの男馬に乗ってみないか」と白井調教師に声をかけられ跨ったのがスペシャルウィークであった。最初に手綱を取った時の乗り味で「ダンスインザダークに似ている」と感じた武騎手は、デビュー戦からダービーを意識するレースを教え込んだ。それは東京の芝2400mに対応できるよう控え、脚を溜めるということ。そして、10度目のダービー挑戦を迎えた。
ゲートを五分に出たスペシャルウィークは中団からレースを進めると、勝負所でぐんぐん加速。直線、坂下に入ったところで自身の瞬発力を最大限に発揮させ、後は後続を引き離すだけという圧勝劇を演じて見せた。ゴールの後、馬上で武騎手は何度もガッツポーズを繰り返し、喜びを爆発させた。
武騎手はダービー初勝利を遂げた後の1週間、喜びから来る興奮で熟睡できるような状態でなかったという。そしてその嬉しさは「この想いをもう1度」というものに変わり、翌年にはダービー史上初となる連覇を達成。その後も「もう1度」を繰り返し、2025年現在では史上最多となる6勝を挙げ、日本の競馬史にその名を刻んでいる。
気づけば「武豊はダービーを勝てない」から「武豊はダービーを最も勝っている男」へ、彼を呼ぶ声は変わっていた。