加藤和宏調教師が語る―騎手時代の心に刻まれた名馬(2)「なんで乗せるんだ?」突然の大抜擢の結果は…
加藤和宏調教師に、騎手時代の印象的な5頭の名馬について語っていただきました。G1初制覇を共にした馬や、ダービージョッキーに導いた馬など……。それぞれのレースでの駆け引きから裏話まで、今だからこそ語れる率直な言葉とともに、当時のレース風景が鮮明に甦る、臨場感あふれるインタビューです。今回は2頭目のヤマエンザン。
②ヤマエンザン ~デビュー初勝利を挙げた馬~
――ホウヨウボーイが1頭目ということで、次に思いつく馬はいらっしゃいますか?
次はヤマエンザンですね。初勝利を挙げた馬です。
あの当時、厩舎には兄弟子もいっぱいいたからね。今の新人騎手は自分の厩舎だけじゃなくて色んな厩舎の馬に乗っているけど、その当時うちの調教師っていうのは、ほかの厩舎の馬に乗せることがなかったんですよ。自分の厩舎だけって感じで、ほかの厩舎に頼まれても断っちゃう。だから、なかなかほかの厩舎には乗れない。
――今とは随分違いますね。
そうです。でも自厩舎だけだと、今度は兄弟子がいっぱいいたから。そんな中でなかなか乗る機会もなかったですね。だからぼくはデビューして、初勝利がそのヤマエンザンで、その時もう9月だったんですよ。同期と比べても一番遅いぐらいで、デビューから半年ぐらい経ってました。でも、そのレースが特別レースだったんですよ。初勝利が特別勝ちっていうね。
――そういうところは「さすがもっている」という感じがしますね?(笑)。
はい(笑)。ただ、なんで特別をぼくに任せてくれたのかは、いまだに不明なんですよ。まだ1勝もしてない新人騎手を。特別で3キロ減もないから、馬主さんからは「なんで乗せるんだ?」みたいなのはあったみたいです。それでも、なにを思ったか先生に乗せてもらったんですよね。千二芝だったかな? 減量がない状態で、ほかのジョッキーと戦って勝つっていうのは、あの当時あまりなかったんじゃないかな? まぁでも新人騎手といっても、もう9月ですけどね。
――初勝利を挙げるまで、不安とかは感じなかったですか?
いや、その当時は乗ること自体が楽しかったですから。不安っていうより、楽しんで乗っていた感じだったね。だから、同期とかが勝ち進んでいっても、自分はそんなに焦りはないっていうか。別に勝てなくても、乗せてもらえているだけで楽しかった。そりゃ、勝ったときは嬉しかったけどね。
[プロフィール] ヤマエンザン
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生年月日 1971年3月2日
性別:牡馬
調教師:二本柳俊夫
馬主:有限会社ヤマトシ興業
生産者:千葉飯田牧場日高分場
通算成績:40戦5勝 [5-5-3-27]
主な勝鞍:1975年 短距離特別(500万下)
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【了】
(文●中西友馬)
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