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加藤和宏調教師が語る――騎手時代の心に刻まれた5頭「あの馬が教えてくれたこと…」

text by 中西友馬

加藤和宏調教師に、騎手時代の印象的な5頭の名馬について語っていただきました。G1初制覇を共にした馬や、ダービージョッキーに導いた馬など……。それぞれのレースでの駆け引きから裏話まで、今だからこそ語れる率直な言葉とともに、当時のレース風景が鮮明に甦る、臨場感あふれるインタビューです。

1980年有馬記念を制したホウヨウボーイ
1980年有馬記念を制したホウヨウボーイ

①ホウヨウボーイ ~G1初勝利を挙げた馬~

――よろしくお願いします。では最初に、騎手時代に思い入れのある馬5頭をお伺いしたいのですが、どういう馬が思い出されますか?

一番は、ホウヨウボーイでしょうね。やっぱりこれはもう、最初にG1を獲らせてもらったというのもありますけど、競馬の楽しさ、苦しさ、G1をどういう風に勝ったらいいのかとか、全部教えてもらった馬ですね。

――ホウヨウボーイでG1を勝利されたのは、デビューして4~5年目ぐらいの話ですよね?

そうです。24歳の時に有馬記念を勝ったわけですから、この馬との出会いは22〜23歳でした。そういう部分も含めて、やっぱり一番最初に思い出す馬となると、この馬になりますね。

――楽しさとか苦しさというのは、具体的にどのようなところで感じましたか?

楽しさでいうと、やっぱりG1を勝たせてもらったからね。それまですごく不安とか緊張とかありましたけど、一度勝ってしまうとそういうのがなくなって、この馬に勝ち方を教えてもらった感じだった。勝ち方だけじゃなく、勝つという喜びも教えてもらって、それがやっぱり「楽しさ」になってくるということですよね。

――やはり苦しさを感じるときもありましたか?

苦しかったのは、有馬記念を勝つ前の天皇賞。まだ当時24歳だったから、G1に乗るってなると緊張するじゃないですか。そのレースで、プリティキャストに大逃げを打たれてしまった。自分は馬を信用しないで、河内くんが乗ってたカツラノハイセイコがライバルだと思って、そればっかり気にしてたんです。要するに、自分の馬を信用しないで、カツラノハイセイコだけ意識して周りが見えていなかった。それがホウヨウボーイを勝たせられなかった原因だったから、自分が情けなくて。
「もっと馬を信用して乗ってあげれば良かったのに……」って悔やんでね。その経験を生かしての有馬記念だったんですよ。

――そうでしたか。初めてのG1勝利が有馬記念っていうのはすごいですね。

その頃って、G1の数が今より少ないじゃないですか。今でいう3歳だと、皐月賞、ダービー、菊花賞。あとは牝馬だったら、桜花賞、オークス、今でいう秋華賞。昔でいうところのエリザベス女王杯ですよね。あと古馬だったら、有馬記念、天皇賞春秋、宝塚記念。
その数少ない中でこの馬に出会って、勝てたのは、本当にぼくの運の良さがあるのかなって思いますね。この馬と出会ってなかったら、この若さでこうやってG1をいくつも勝てたっていうことはなかったと思います。

1981年第84回天皇賞を制したホウヨウボーイ
1981年第84回天皇賞を制したホウヨウボーイ

[プロフィール] ホウヨウボーイ

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生年月日 1975年4月15日
性別:牡馬
調教師:二本柳俊夫
馬主:古川嘉治
生産者:豊洋牧場
通算成績:19戦11勝 [11-5-0-3]
主な勝鞍:1980年有馬記念、1981年天皇賞
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